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  • 2021.09.22

独占禁止法について〔その13〕

独占禁止法について〔その13〕

独占禁止法違反行為の一つである不公正な取引方法について、ご説明しています。
前回は、「拘束条件付取引」うち、「序説」、「排他的条件付取引」及び「再販売価格の拘束」について、ご説明いたしました。今回は、「拘束条件付取引」のうちの「(狭義の)拘束条件付取引」について、ご説明します。

7. 拘束条件付取引
(4) 拘束条件付取引

(ア) 行為類型と公正競争阻害性

(a) 序説
広義の拘束条件付取引に係る具体的な行為類型の一つとして、平成21年一般指定は、(狭義の)拘束条件付取引(12項)を規定しています。狭義の拘束条件付取引は、広義の拘束付取引のうち独占禁止法2条9項4号及び同指定11項が規定する行為類型以外のものを包括的に対象としています。
同指定12項には、「不当に」という評価的要件が用いられています。これは、原則として違法となるのではなく、個別に公正競争阻害性が備わってはじめて違法となることを示すものです。
同指定12項は、包括的に拘束条件付取引を対象としており、一般的抽象的にその公正競争阻害性の内容を論ずるのは困難ですから、次の(イ)で具体例を挙げながら、その各々について公正競争阻害性を検討することとしましょう。

(b) 流通・取引慣行ガイドラインの立場の検討
公取委の流通・取引慣行ガイドラインは、事業者がマーケティングの手段として流通業者に対してその取扱商品、販売地域、取引先等を制限することを非価格制限行為と称した上、その違法性についての判断の考え方として「事業者の非価格制限行為は、(中略)その行為類型及び個別具体的なケースごとに市場の競争に与える影響をみて、違法となるか否かが判断される。(中略) 事業者が非価格制限行為を行っているかどうかについては、(中略)再販売価格についての拘束と同様、事業者が取引先事業者に対し契約等で制限している場合だけでなく、事業者の要請に従わない取引先事業者に対し経済上の不利益を課すなど何らかの人為的手段を用いることによって制限の実効性が確保されている場合にも、制限行為が行われていると判断される。」と述べています[1]

そして、流通・取引慣行ガイドラインは、非価格制限行為の他に、取引先事業者の販売価格の制限をする行為(再販売価格の拘束)をも加えて「垂直的制限行為」と名付け[2]た上、これらの行為の公正競争阻害性について、次のように述べています[3]
「再販売価格維持行為は、流通業者間の価格競争を減少・消滅させることになるため、 通常、競争阻害効果が大きく、原則として公正な競争を阻害するおそれのある行為である。 一方、非価格制限行為は、一般的に、その行為類型及び個別具体的なケースごとに 市場の競争に与える影響が異なる。すなわち、非価格制限行為の中には、①行為類型のみから違法と判断されるのではなく、個々のケースに応じて、当該行為を行う事業者の市場における地位等から、「市場閉鎖効果が生じる場合」や、「価格維持効果が生じる場合」といった公正な競争を阻害するおそれがある場合に当たるか否かが判断されるもの及び②通常、価格競争を阻害するおそれがあり、当該行為を行う事業者の市場における地位を問わず、原則として公正な競争を阻害するおそれがあると判断されるものがある。」

このガイドラインの考え方は、通常、価格競争を阻害するおそれがあるものについては原則として違法としつつ、そうでないものについては個別具体的に市場の競争に与える影響をみて違法性を判断するという趣旨に解されますが、価格競争を阻害するおそれがあるかどうかで違法性の判断を異にする理由は明らかではありません。

(c) ブランド内競争とブランド間競争
前述のように、再販売価格の拘束については、価格面のブランド内競争が消滅しても、それによりブランド間競争が増進するという状況が仮に存在するとすれば、市場全体としての価格競争は損なわれておらず公正競争阻害性の要件を充足しないこととなるのではないかという議論があります。
拘束条件付取引についても同様の問題が議論されています。そして、この問題についても学説上見解が分かれているようです。

すなわち、ある学説によれば、拘束条件付取引は、相手方の事業活動の自由を奪うものであるから、製品差別化が成功しているか、有力な事業者によってなされるのでなければ実効性を持つことが困難であり、これはブランド間競争が活発でないことを意味することから、拘束条件付取引によってブランド間競争が促進されることはないとします。
他方、他の学説は、拘束条件付取引の中には、ブランド内競争は制限するが、ブランド間競争は必ずしも制限せず、むしろブランド間競争の促進に貢献するものもあるとし、その例として、製造業者が販売業者に課するテリトリー制や顧客制限は、販売業者間のブランド内非価格競争を排除することとなるが、それぞれの販売業者の権益が保護され、他の販売業者の「只乗り(フリーライド)」を防止することによって、当該製造業者の系列に属する販売業者の市場開拓のための投資を促進し、系列全体の他系列との関係における競争力が増進されることも考えられるところ、これはブランド間競争の促進に他ならないとします。

思うに、上記の両説は水掛け論となっている観があり、その優劣を決するには、実証的な分析が必要であると思われます。ただ、一般論として言えば、価格という最も重要な競争手段について販売業者間の競争を消滅させる再販売価格の拘束とは異なり、(狭義の)拘束条件付取引には種々の態様が含まれているところ、比較的重要性の低い競争手段を拘束の対象とするものについては、ブランド間競争の活発さと両立することを否定することはできないため、再販売価格の拘束の場合と同列に論ずることはできないものと思われます。
流通・取引慣行ガイドラインは、公正競争阻害性の有無の判断において考慮すべき競争促進効果の一つとして、次のようにフリーライダー問題への対処があり得るものと述べています[4]
「フリーライダー問題が現実に起こるために、購入に必要な情報が消費者に十分提供されなくなる結果、商品の供給が十分になされなくなるような高度の蓋然性があるときに、当該事業者が、一定の地域を一流通業者のみに割り当てることなどが、フリーライダー問題を解消するために有効となり得る。ただし、このような制限に競争促進効果があると認められるのは、当該流通業者が実施する販売促進活動が当該商品に関する情報を十分に有していない多数の新規顧客の利益につながり、当該制限がない場合に比べ購入量が増大することが期待できるなどの場合に限られる。また、そうした販売促進活動が、当該商品に特有のものであり、かつ、販売促進活動に要する費用が回収不能なもの(いわゆる埋没費用)であることが必要である。」

(イ) 具体例
拘束条件付取引の具体例としては、次のようなものがあります。

(a) 営業地域の制限
相手方が事業活動を行う地域を制限するものです。商品の販売地域の制限が問題となることが多いです。
流通・取引慣行ガイドラインによれば、事業者が流通業者の販売地域を制限する場合の例として、次のようなものがあるとされています[5]

(ⅰ) 責任地域制――事業者が流通業者に対して、一定の地域を主たる責任地域として定め、当該地域内において、積極的な販売活動を行うことを義務付けること。

(ⅱ) 販売拠点制――事業者が流通業者に対して、店舗等の販売拠点の設置場所を一定地域内に限定したり、販売拠点の設置場所を指定すること。

(ⅲ) 厳格な地域制限――事業者が流通業者に対して、一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限すること。

(ⅳ) 地域外顧客への受動的販売の制限――事業者が流通業者に対して、一定の地域を割り当て、地域外の顧客からの求めに応じた販売を制限すること。
そして、同ガイドラインは、これら4種類の販売地域の制限の違法性について、次のように述べています[6]
(α) 上記の(ⅰ)及び(ⅱ)については、事業者が商品の効率的な販売拠点の構築やアフターサービス体制の確保等のため、流通業
者に対して(ⅰ)や(ⅱ)を採ることは、(ⅲ)又は(ⅳ)に該当しない限り、違法とはならない。
(β) 上記の(ⅲ)については、市場における有力な事業者[7]が流通業者に対し(ⅲ)を行い、これによって価格維持効果が生じる場
合には、不公正な取引方法(拘束条件付取引)に該当し、違法となる。
(γ) 上記の(ⅳ)については、事業者が流通業者に対し(ⅳ)を行い、これによって価格維持効果が生じる場合には、不公正な取引
方法(拘束条件付取引)に該当し、違法となる。

(b) 取引先の制限
相手方に対し、その取引先を制限するものです。メーカーが流通業者の取引先を制限することが問題となることが多いです。
流通・取引慣行ガイドラインには、次のような例が挙げられています[8]

(ⅰ) 帳合(ちょうあい)取引の義務付け――事業者が卸売業者に対して、その販売先である小売業者を特定させ、小売業者が特定の卸売業者としか取引できないようにすること。

(ⅱ) 仲間取引の禁止――事業者が流通業者に対して、商品の横流しをしないよう指示すること。

(ⅲ) 安売り業者への販売禁止――事業者が卸売業者に対して、安売りを行う小売業者への販売を禁止すること。
同ガイドラインは、これらの取引先の制限の違法性について、次のように述べています[9]
(α) 上記の(ⅰ)については、事業者が流通業者に対し(ⅰ)を行い、これによって価格維持効果が生じるには、不公正な取引方法
(拘束条件付取引)に該当し、違法となる。
(β) 上記の(ⅱ)については、取引の基本となる取引先の選定に制限を課すものであるから、その制限の形態に照らして販売段階
での競争制限に結び付く可能性があり、これによって価格維持効果が生じる場合には、不公正な取引方法(拘束条件付取引)
に該当し、違法となる。
(γ) 上記の(ⅲ)については、事業者が卸売業者に対して、安売りを行うことを理由に小売業者へ販売しないようにさせること
は、事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定するという事業者の事業活動において最も基本的な事項に
関与する行為であるため、通常、価格競争を阻害するおそれがあり、原則として不公正な取引方法(その他の取引拒絶(平成
21年一般指定2項)又は拘束条件付取引)に該当し、違法となる。
私は、同ガイドラインの上記(a)(b)の立場についても、価格競争が阻害されるかどうかを重視している点について疑問を持ちます。

(c) 選択的流通
事業者が自社の商品を取り扱う流通業者に関して一定の基準を設定し、当該基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせようとする場合、当該流通業者に対し、自社の商品の取扱いを認めた流通業者以外の流通業者への転売を禁止することがあります。これを 「選択的流通」と呼びます。
これについては、商品を取り扱う流通業者に関して設定される基準が、当該商品の品質の保持、適切な使用の確保等、消費者の利益の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、当該商品の取扱いを希望する他の流通業者に対しても同等の基準が適用される場合には、たとえ事業者が選択的流通を採用した結果として、特定の安売り業者等が基準を満たさず、当該商品を取り扱うことができなかったとしても、通常、問題とはならないものとされています[10]

(d) 販売方法の制限
相手方に対し、自己の供給する商品の販売方法を制限するものです。
事業者による小売業者の販売方法に関する制限としては、次のようなものが挙げられています[11]

(ⅰ) 商品の説明販売を指示すること。

(ⅱ) 商品の宅配を指示すること。

(ⅲ) 商品の品質管理の条件を指示すること。

(ⅳ) 自社商品専用の販売コーナーや棚場を設けることを指示すること。
これらの販売方法の制限について、流通・取引慣行ガイドラインは、次のように述べています[12]
(α) 事業者が小売業者に対して、販売方法(販売価格、販売地域及び販売先に関するものを除く)を制限することは、商品の安
全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、当該商品の適切な販売のためのそれなりの合理的な理由が認められ、か
つ、他の小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には、それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。
(β) しかし、事業者が小売業者の販売方法に関する制限を手段として、小売業者の販売価格、競争品の取扱い、販売地域、取引
先等についての制限を行っている場合[13]には、同ガイドラインにおいて既に述べた考え方に従って違法性の有無が判断され
る。

次回は、取引上の地位の不当利用、取引妨害・内部干渉について、ご説明する予定です。

 

[1] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第2‐1。
[2] 流通・取引慣行ガイドライン第1部‐2。
[3] 流通・取引慣行ガイドライン第1部-3- (2)。
[4] 流通・取引慣行ガイドライン第1部‐3‐(3)‐ア)。
[5] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第2‐3‐(1)。
[6] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第2‐3‐(2)~(4)。
[7] 流通・取引慣行ガイドライン第1部‐3‐(4)。
[8] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第2‐4‐(1)。
[9] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第2‐4‐(2)~(4)。
[10] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第2‐5。
[11] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第2‐6‐(1)。
[12] 流通・取引慣行ガイドライン第1部第2‐6‐(2)。
[13] このような場合の例として、流通・取引慣行ガイドラインは「当該制限事項を遵守しない小売業者のうち、安売りを行う小売業者に対してのみ、当該制限事項を遵守しないことを理由に出荷停止等を行う場合には、通常、販売方法の制限を手段として販売価格について制限を行っていると判断される」と述べています(同ガイドライン第1部第2‐6‐(2)‐(注9))。

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