ブログ

ブログ|プロシード法律事務所

  • 2022.03.04

独占禁止法について〔その16〕

独占禁止法について〔その16〕

 

これまで、独占禁止法違反行為である私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法についてご説明してきました。これらは、独占禁止法違反行為の中でも特に重要なものであり、「独占禁止法の三本柱」と呼ばれています。

独占禁止法には、これらの他に、次のような規制が設けられています。

(a) 事業者団体の活動に対する規制(8条~8条の3)

(b) 独占的状態に対する規制(8条の4)

(c) 企業結合に対する規制(9条~18条)

(d) 国際取引に対する規制(6条~7条の8)

 

これらのうち特に重要なものは(c)で、近年、冒頭の三本柱と併せて、「独占禁止法の四本柱」と言われることも多くなっています。

今回は上記のうち(a)(b)についてご説明し、(c)については次回に、また、(d)については次々回に、ご説明することとします。

 

Ⅰ 事業者団体の活動に対する規制

  1. 事業者団体に対する規制の必要性

独占禁止法の規制は、主として事業者を対象としたものです。

しかしながら、競争を損なう行為は、事業者によって行われるとは限りません。

事業者以外の者のうち特に問題となるのは、複数の事業者から成る組織体です。事業者の組織体は、一般に単独の事業者に比べてより大きな経済力を持っていますから、その経済力を行使した活動をすることによって、比較的容易に市場の競争を損なう効果を生じさせることができます。

そこで、独占禁止法は、このような事業者の組織体を「事業者団体」(2条2項)として定義した上、8条において、事業者団体の一定の行為を禁止することとしています。

以下においては、2.で「事業者団体」の概念についてはご説明した後、3. で事業者団体の禁止行為についてご説明します。

 

  1. 事業者団体の概念

(1) 序説

「事業者団体」とは、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とするニ以上の事業者の結合体又はその連合体をいいます(2条2項前段)。

事業者団体に属するものとしては、いわゆる業界団体(主に同業種の事業者から構成される団体。様々な業界において、全国規模で又は地域・規模ごとに多数存在する)が最も代表的なものですが、それには限りません。

(2) 事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とすること

「事業者としての利益」とは、構成事業者(事業者団体の構成員である事業者(8条4号))の経済活動に直接又は間接に寄与する利益をいいます。具体的には、個別具体的なもの(例:商品の新しい販路の開拓、原材料の安定的な購入、新技術の研究開発)に限らず、一般的・抽象的なもの(例:当該業界の経済的規模の拡大発展、産業界全体の健全な発展)も含まれます。

事業者としての「共通の利益」とは、構成事業者の利害が一致する利益のことです。しかし、必ずしも全ての構成事業者にとっての共通の利益である必要はなく、構成事業者全体のうちの主要な部分にとっての共通の利益であれば足りるものと解されます。

「主たる目的」とは、それが団体の目的の主要なものの一つであることを意味します。必ずしもそれが唯一又は最重要の目的である必要はありません。例えば、慈善事業を併存的な目的とする団体であっても、事業者団体であり得ます。

(3) ニ以上の事業者の結合体又はその連合体であること

「ニ以上の事業者」における「事業者」の意味は、原則として2条1項前段にいう事業者と同一です [1]

「ニ以上の事業者の結合体」とは、ニ以上の事業者から構成される独立の社会的存在を意味します。

ニ以上の事業者の結合体の「連合体」とは、事業者団体の結合体であり、例えば、地域別に設立された事業者団体の全国組織などがこれに該当し得ます。

 

  1. 規制の内容と具体例

以下においては、8条各号の行為類型について検討してみましょう。

(1) 「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(1号)

本号の行為は、事業者団体が一定の取引分野における競争を実質的に制限すること(競争の実質的制限)です。

(ア) 本号の行為の要件

競争の実質的制限の意味については、「独占禁止法について〔その4〕」でご説明したとおりであり、特に付け加えることはありません。

本号は、事業者の場合における3条に相当します。しかしながら、以下のとおり、3条との相違が2点あります。

第一に、3条の私的独占や不当な取引制限は行為類型が限定的に定義されている(2条5項・6項)に対して、本号の行為は、行為類型の限定がなく、単に行為の効果としての競争の実質的制限の発生が規定されているにとどまることです。もっとも、事業者団体の行為は実質的には構成事業者間の共同行為ともみられることから、本号に該当する行為は、不当な取引制限に相当する行為であるとする見解が有力でした。しかしながら、事業者団体が一体となって、他の事業者の事業活動を排除又は支配するという形態を採る場合には、私的独占に相当する行為が本号に該当するものとみることができるでしょう [2]

第二に、3条の私的独占や不当な取引制限の定義規定(2条5項・6項)とは異なり、本号には反公益性の要件(「公共の利益に反して」)がないことです。この点について、反公益性の要件について宣言的規定説(「独占禁止法について〔その6〕」)を採る通説の立場においては、この要件の存在に積極的意義を認めませんから、両者の間に実質的相違はないこととなります。これに対し、私は、反公益性の要件について例外許容説(「独占禁止法について〔その6〕」)と称する立場を採りますが、反公益性の要件を本号にも類推適用すべきであると考えます [3] ので、通説とは理由は正反対ながら、私見においても両者の間に実質的相違はないこととなります。

(イ) 本号と3条との適用関係

事業者団体の行為は構成事業者間の共同行為とみることもできる場合が多いところ、それにより競争の実質的制限が生ずる場合には、3条後段と8条1号の双方の要件を充足することとなります。

この場合、これら両条項の適用関係について、公取委の運用においては、事業者団体の単一の行為には3条後段と8条1号のいずれかが選択的に適用されており、両条項を重畳的に適用することは行われていません。

(ウ) 具体例

勧告審決平成7年1月6日審決集41巻224頁(郡山市建設業者親和会事件)は、建設業者を会員とし、会員の経営、技術に関する調査研究指導等を行うことを目的とする郡山市建設業者親和会が、郡山市発注の建設工事の受注機会の均等化を図るため、受注希望者が1名のときはその者を受注予定者とし、受注希望者が複数のときは、受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定するとともに、受注予定者以外の者は受注予定者がその定めた価格で受注することができるように協力するという方法により、会員に、受注予定者を定めさせ、受注予定者が受注できるようにさせることを決定したことを本号に該当するものとしました。

審判審決平成12年5月8日審決集47巻112頁(日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会事件)は、優良鶏の普及、種鶏の改良等を通じ我が国養鶏業の振興に寄与することを目的とする社団法人日本種鶏孵卵協会のブロイラー孵卵部会の一地域協議会であり、地区内で素(もと)びな(肉用鶏のひな鶏)を生産販売する者を会員とする被審人を事業者団体に該当するものと認めた上、被審人が、会員の素びなの養鶏業者等向け販売価格の引上げを決定したことを本号に該当するものとしました。

審判審決平成7年7月10日審決集42巻3頁 (大阪バス協会事件)は、事業者団体による価格の引上げに係る協定について、本号への該当性を否定した事案です(「独占禁止法について〔その6〕」)。

(2) 「第六条に規定する国際的協定又は国際的契約をすること」(2号)

本号の行為は、事業者団体が外国の事業者又は事業者団体と不当な取引制限又は不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的協定又は国際的契約をする行為です。国際的な価格カルテルや市場分割カルテルなどが対象となります。

これまでに本号違反に問われた審決例は存在しません。

(3) 「一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること」(3号)

本号の行為は、事業者団体が、新たな事業者の参入を阻止したり、既存事業者を排除することによって、一定の事業分野における事業者の数を制限する行為です。

(ア) 本号の行為の要件

「一定の事業分野」は「一定の取引分野」(8条1号、2条5項・6項等)とは異なる観念であり、後者が相互に競争関係にある供給者群と需要者群との間の取引の場(=市場)を意味するのに対し、前者は、相互に競争関係にある供給者群又は需要者群のいずれか一方の事業活動の範囲を意味します。

本号にいう「事業者」は、当該事業者団体の構成事業者と同一の事業分野に属する者であるか否かを問いません。「現在……の事業者の数を制限する」とは、事業者の数を現状に固定したり、現存する特定の事業者を排除することであり、これは、当然に「将来」の事業者の数を制限することにつながります。「将来の事業者の数を制限する」とは、新規参入を制限することです。「事業者の数を制限する」ための方法は問いません。団体に加入していなければ事業の継続が困難である状況において団体への加入を制限することや団体から除名すること、アウトサイダーに対して取引拒絶をすること等が通常用いられる方法です。

(イ) 本号と1号との適用関係

本号と1号とはどのような適用関係にあるのでしょうか。

この点については、事業者の数を制限することにより競争の実質的制限が生じた場合には、1号のみが適用され、本号は適用されないものと解されます。したがって、本号は、事業者の数を制限することの効果が競争の実質的制限にまで至らない場合にのみ適用されます [4]。それゆえ、本号が想定する行為は、排除されたり新規参入を阻止されたりする事業者の数が比較的少数であるなどのため、競争の実質的制限が生じているとまでは言えない場合であると考えられます。

(ウ) 具体例

審判審決平成11年10月26日審決集46巻73頁(観音寺市三豊郡医師会事件)は、医師会である被審人の行為が問題となりました。被審人は、会員である開業医に対し、健康診査実施のための学校への推薦、母体保護法指定医師の申請、医療に関する研修の実施、関係行政機関からの通達類の伝達等を行っているため、被審人に加入することなく独自に開業するときは会員に比し事業上不利となるおそれがあることから、被審人に加入しないで開業医となることは一般に困難な状況にあります。被審人は、将来の患者の取合いを防止する目的で、地区内で医療機関を開設する場合、病床を増床する場合等には事前に申出させ、それに対し、同意、不同意、条件付同意又は保留の決定を行っており、被審人から不同意の決定を受けた者は医療機関の開設を断念し、条件付同意又は保留の決定を受けた者は当該決定に従っています。審決は、この被審人の行為を、医療機関の開設を制限することにより、当該地区の開業医に係る事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限したものとして、本号に該当するものとしました。被審人は、本件審決を不服として、その取消しを求めて出訴しましたが、東京高判平成13年2月16日判時1740号13頁は、請求を棄却しました。

(4)「構成事業者(事業者団体の構成員である事業者をいう。以下同じ。)の機能又は活動を不当に制限すること」(4号)

本号の行為は、事業者団体が構成事業者の機能又は活動を不当に制限することです。

(ア) 本号の行為の要件

事業者団体は複数の事業者から成る組織体であり組織として活動しますから、構成事業者の事業活動を多かれ少なかれ制限することとなることは当然です。本号は、そのうち「不当に」制限する場合を禁止の対象となる行為としたものです。

構成事業者の機能又は活動を不当に制限することによって、競争の実質的制限を生じさせる場合には、本号ではなく1号が適用されます。それゆえ、本号が対象とする行為は、競争の実質的制限を生じさせるに至らない場合です [5]

「構成事業者」とは、本号のカッコ書で「事業者団体の構成員である事業者をいう」と定義されています。「機能又は活動」のうち「機能」とは活動能力をいい、「活動」とは機能の現実的発動をいいます。両者は、事業活動を静的側面から見るか、動的側面からみるかの相違に過ぎず、要するに「機能又は活動」とは事業活動の全般を指します。

「不当に制限する」の「不当に」とは、構成事業者の事業活動の制限行為を違法なものとする評価的要件です。上述のように、本号の行為は、競争の実質的制限を生じさせるに至らない行為であることを考えますと、ここにいう不当性は、公正競争阻害性(「独占禁止法について〔その8〕」)を意味するものと解するのが妥当です。

(イ) 具体例

4号に該当するものとされる場合は多岐にわたりますが、(a)構成事業者の市場占有率の合計が低い事業者団体による価格制限行為、(b)商品・役務の種類・品質・規格や営業の種類・内容・方法等その制限による市場メカニズムへの影響が直接的であるとは必ずしも言えない要素に係る制限行為、が主なものです。

勧告審決平成8年1月12日審決集42巻185頁(石川県水晶米販売事業協同組合事件)においては、上記(a)に属する行為が問題となりました。本件は、「水晶米」と称する商標を附した精米の小売業者を組合員とし、その市場占有率の合計が約3割である事業協同組合が、水晶米の卸売価格の改定に伴い、その小売基準価格を決定し、組合員に同価格で販売させたことを本号に該当するものとしました。

上記(b)に属する行為が問題となった事件として、勧告審決平成11年1月25日審決集45巻185頁(浜北市医師会事件)があります。本件は広告制限に関する事案です。本件は、医師会が、医療機関相互の広告活動による患者の争奪を防止する等のため、(ⅰ)看板以外の広告については、その媒体を原則として定期刊行物の新聞、雑誌及びチラシのみに限定し、バス、電車等の車内において行う広告等を禁止するとともに、広告する時期は医療機関の新規開業、移転等の場合に限ること、(ⅱ)看板については、自己の医療機関の所在地点から1,000メートルを超える場所に設置することを禁止し、1,000メートル以内に設置する場合においては、その数を10箇所以内とすること、等を内容とする広告自粛規程を会員に遵守させることにより、会員の広告活動を制限したことを本号に該当するものとしました。

(5) 「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」(5号)

本号の行為は、事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすることです。

(ア) 本号の行為の要件

本号は、事業者の場合の19条に相当します。もっとも、不公正な取引方法は事業者がその主体となるものとして構成された観念であるため、本号は、事業者団体自身が不公正な取引方法を行うことではなく、事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすることを要件としています。

本号にいう「事業者」は、当該事業者団体の構成事業者である必要はなく、非構成事業者でも足りると解されます。

「不公正な取引方法に該当する行為」は、事業者団体に強制、勧奨されて事業者が行う行為です。

本号の行為は、〈事業者団体が、事業者に公正競争阻害性の要件を充足する不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること〉を意味しますから、事業者の行為には公正競争阻害性が必要であり、そして、そのような行為を強制、勧奨する事業者団体の行為が本号に該当するものと考えられます。

「…をさせるようにする」とは、事業者が不公正な取引方法に該当する行為を行うよう働きかけるという意味であり、必ずしも強制することを必要とはせず、単に勧奨するだけでも足ります。また、事業者が事業者団体の働きかけに応じて、現実に不公正な取引方法に該当する行為をするか否かを問いません。

(イ) 具体例

勧告審決昭和44年4月18日審決集16巻23頁(楽しい手芸のハマナカ九州代理店会事件)は、手編・手芸糸の卸売業者を会員とする任意団体が、小売店の最低販売価格を決定し、会員が小売店に同価格を守らせるようにしたことを、再販売価格の拘束(昭和28年一般指定8号(現2条9項4号))に該当する行為をさせるようにしたものとして本号に該当するものとしました。

同意審決昭和58年9月30日審決集30巻50頁(滋賀県生コンクリート工業組合事件)は、生コンクリート製造業者を組合員とする商工組合が、セメント製造業者をして不当に非組合員にセメントを供給させないようにしたことを、セメント製造業者に「その他の取引拒絶」(昭和57年一般指定2項(現平成21年一般指定2項))に該当する行為をさせるようにしたものとして本号に該当するものとしました。

 

  1. 違反行為に対する措置

(1) 排除措置命令

8条各号に該当する違反行為に対する措置として最も重要なものは、排除措置命令です(8条の2)。排除措置命令は、違反行為の差止め、当該団体の解散その他当該行為の排除に必要な措置を命ずるものであり、違反行為をした事業者団体に対して行われます(同条1項・2項)が、特に必要があると認めるときは、当該団体の役員若しくは管理人又はその構成事業者(事業者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者が構成事業者である場合には、当該事業者を含む)に対しても、事業者団体に対して命じる排除措置を確保するために必要な措置を命ずることができます(同条3項)。

(2) 課徴金納付命令

事業者団体の違反行為については、一定の場合に課徴金の納付が命じられます。

すなわち、事業者団体が、8条1号(不当な取引制限に相当する行為をする場合に限る)又は2号(不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定又は国際的契約をする場合に限る)の規定に違反する行為で、(ア)商品・役務の対価に係るもの、又は、(イ)商品・役務について、その供給量又は購入量、市場占有率、取引の相手方のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの、に該当するものをしたときは、公取委は、一定の算式で計算した額の課徴金の納付を命じなければなりません(8条の3前段・7条の2第1項)。

課徴金納付を命ずる対象は、違反行為の主体である事業者団体ではなく、当該事業者団体の構成事業者です(8条の3後段の読替え規定) [6]

 

Ⅱ 独占的状態に対する規制

  1. 趣旨

市場において独占や寡占という状態が存在することは、事業者が競争を損なう行動を行うことを容易にします。このように、事業者が競争的な行動を採るかどうかは、その市場の構造によって左右されるところが大きくなります。したがって、独占禁止政策の立場からは、非競争的な市場構造は、極力排斥することが望ましいこととなります。

競争を損なう行為に対する規制(行為規制)を設けることのみによって、非競争的な市場構造の形成を防止することができるとは限りません [7]

このように、行為規制のみによっては、非競争的な市場構造の形成を防止することができないならば、独占禁止法の規制として、行為規制の他に、市場の構造に対する規制(構造規制)を設けることが必要となります。そして、構造規制のための措置としては、独占ないし寡占的な市場における事業者を分割することにより事業者の数を増加させ、競争を促進させることが最も効果的なものの一つとして考えられるでしょう。このような措置は企業分割と呼ばれるものです。

しかしながら、何ら競争を損なう行為を行わずに市場において勝ち残った事業者は、優れた競争力を構築するための企業努力の結果として現在の地位を勝ち得たのであり、それにもかかわらず、独占禁止法により規制されることとなれば、市場の各事業者が企業努力を払おうとする誘因を挫くこととなって、却って競争を損なうこととなり経済は活力を失うこととなりかねません。

それゆえ、独占禁止法上、構造規制を規定するかどうか、規定するとしても具体的にどのような要件の下にどのような措置を設けるかは、甚だ困難な問題です。

現行の独占禁止法の「第三章の二 独占的状態」(8条の4。「独占的状態」の定義は2条7項)の規定は、上記のような複雑な問題に対する激しい議論の結果、昭和52年の改正で設けられることとなったものです。

 

  1. 独占的状態とそれに対する規制

独占的状態の定義やそれに対する規制を発動するための要件は、この制度を導入する際の激しい議論の対立の中で妥協を強いられたことを反映してか、著しく厳格に規定されています。

(1) 独占的状態の定義

「独占的状態」の定義は、2条7項にあります。

第一に、「一定の商品」と「これとその機能及び効用が著しく類似している他の商品」(以下「類似の商品」といいます)、又は「同種の役務」の供給額の最近1年間における合計額が千億円を超えること (2条7項本文。これを「国内総供給価額要件」といいます)。この要件を満たす場合における供給者群の事業活動の範囲が2条7項本文にいう「一定の事業分野」です。

第二に、当該1年間において、一定の商品と類似の商品又は当該役務の数量(又は価額)について、1の事業者の事業分野占拠率が50%を超え、又は2の事業者の事業分野占拠率の合計が75%を超えていること(2条7項1号。これを「事業分野占拠率要件」といいます)。

第三に、他の事業者の当該事業分野への新規参入を著しく困難とする事情があること(2条7項2号。これを「新規参入要件」といいます)。

第四に、当該事業者が供給する当該一定の商品又は役務につき、相当の期間、需給の変動及びその供給に要する費用の変動に照らして、価格の上昇が著しく(上方弾力的)、又はその低下がきん少(僅少)であり(下方硬直的)、かつ、(ア)著しく過大な利益を得ているか、又は、(イ)著しく過大な販売費及び一般管理費を支出していること(2条7項3号)。この第四の要件は、市場が非競争的であるために弊害が生じていることを必要とするものであり、「弊害要件」と呼ばれます。

(2) 消極要件と配慮事項

上記第一の要件を満たす独占的状態があっても、次の要件(「消極要件」)がある場合には、公取委は事業者に対する措置を命ずることができません(8条の4第1項但書)。

すなわち、消極要件は、(a)当該措置により、当該事業者につき、その供給する商品・役務の供給に要する費用の著しい上昇をもたらす程度に事業の規模が縮小し、経理が不健全になり、又は、国際競争力の維持が困難になると認められる場合、及び、(b)当該商品・役務について競争を回復するに足りると認められる他の措置が講ぜられる場合、です。

また、公取委は、措置を命ずるに当たっては、一定の事項に基づき、当該事業者及び関連事業者の事業活動の円滑な遂行並びに当該事業者に雇用されている者の生活の安定について配慮しなければならないとされています(8条の4第2項)。

(3) 公取委の措置

上記(1)の要件を満たす独占的状態があり、上記(2)の消極要件が存在しない場合には、公取委は、事業者に対し事業の一部の譲渡その他当該商品・役務について競争を回復させるために必要な措置を命ずることができます(8条の4第1項本文)。

ここにいう「競争を回復させるために必要な措置」(「競争回復措置」と呼ばれます)としては、(ア)例示されている「事業の一部の譲渡」の他に、(イ)資産の譲渡、(ウ)株式の処分、(エ)役員兼任の禁止、(オ)特許・ノウハウの公開、(カ)流通経路の開放(流通系列化が新規参入の阻止要因となっている場合)、などがあるものと解されています。

前述1.のように、構造規制のための措置として最も効果的なものの一つは、企業分割です。企業分割は、他の事業者に対する事業の一部の譲渡(上記の(ア))等の形を採る場合の他、措置を命じられる事業者自体を二以上に分割するという形のものも含まれるものと解されます。

なお、独占的状態に対する規制は、制度創設以来、一度も発動されたことはありません。

 

[1] しかし、団体の中には、事業者の利益のために活動する地位にある者が個人の名義で加入し組織する団体があります。このような団体は、その構成員の所属先である事業者間の競争に影響を与える行為をする可能性がありますから、通常の事業者団体と同様に、独占禁止法の規制の対象とするのが妥当です。そこで、「事業者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者」は、2条2項(事業者団体の定義)又は第3章(事業者団体)の規定の適用については、事業者とみなすものとされています(2条1項後段)。

[2] 近年は一般にそのように解されています。審決例においても、勧告審決昭和45年1月21日審決集16巻138頁(石油連盟東京支部事件)は、石油精製業者・石油元売業者を会員とする石油連盟の東京支部(この東京支部自体が事業者団体と認められました)が、東京都財務局に対する石油製品納入価格を決定し、これを特約店(販売業者のうち比較的事業規模の大きい者であって、元売業者により系列特約店等とされているもの)に遵守させたことを、「特約店の事業活動を支配することにより」競争の実質的制限を生じさせたものとして本号に該当するとしました。

[3] 判例においても、8条1号に反公益性の要件を読み込んだものがあります(東京地判平成9年4月9日判時1629号70頁(エアーソフトガン事件))。

[4] もし、本号の要件として必要とされる効果が1号の場合と同様であるとすれば、1号とは別個に本号を設け、しかも、本号違反には1号違反よりも軽い刑罰が規定されている(89条1項2号と90条2号とを対比して下さい)ことの説明がつかなくなるから妥当ではありません。

[5] このように解される理由は、3号の場合と同じく、(イ)そのように解さないと1号とは別に本号を規定した意義がなくなること、(ロ)1号と本号には刑罰の重さの相違があること、です。

[6] 構成事業者に納付が命じられるのは、(a)違反行為により経済的利得を得るのは構成事業者であること、(b)事業者団体の総意は構成事業者によって形成されたものであること、(c)事業者団体の違法な決定に従った構成事業者の行為を防止することにより事業者団体の違反行為の防止を図る必要があること、によるものとされています。なお、個人名義の役員等を構成員とする事業者団体の違反事件について、課徴金納付を命ずる対象には、役員等が所属する事業者も含まれます(8条の3後段の読替え規定)。

[7] その理由としては、次のものが考えられます。第一に、行為規制の内容ないしその運用が不十分であるために、非競争的な市場構造が形成されてしまうという場合があり得ます。例えば、本来規制されるべき行為が公取委によって見落とされてしまったり、あるいは規制が発動されても法律上設けられている措置が、対象とされる行為を完全に排除するには弱体であったりするために、規制が十分な実効性を持ち得ないような場合です。第二に、何ら競争を損なう行為が行われなかったにもかかわらず、非競争的な市場構造が形成される場合があり得ます。例えば、元来、競争的な市場構造であったにもかかわらず、多くの事業者の中で単一ないしごく小数の事業者のみが、極めて優秀な技術力、営業力、資金調達力等の事業能力を有していたために競争に勝ち残って、他の多くの事業者が市場から撤退せざるを得なくなったが、その後、勝ち残った事業者が競争努力を怠り独占的地位に安住するようになったために、結果的に非競争的な市場構造が形成されるというような場合です。

お問い合わせはこちらから

大阪で安心して相談できる弁護士をお探しの方は、お気軽にプロシード法律事務所にご相談くださいませ。
初回無料相談もございますので、お問合せお待ちしております。

06-4709-5800
受付時間 9:00-18:00(土日祝除く)
お問合せはこちら
大阪弁護士会所属 Copyright (C) 2020 プロシード法律事務所 All rights reserved.