10 企業側の労働問題 降格に伴う賃金の引き下げに...
<10 降格に伴う賃金の引き下げについて> プロシード法律事務所代表弁護士の佐藤竜一と申します。本事務所では...
- 2023.10.01
独占禁止法について〔その19〕
今回は、独占禁止法の適用除外について、ご説明いたします。
Ⅰ 総説
法律上、独占禁止法の適用除外を認める規定が置かれている場合があります。
独占禁止法の適用除外制度には、独占禁止法自体に規定されているものと、他の法律に規定されているものとがあります。いずれも以前に比べれば減少してきています。
現在、独占禁止法自体に規定されている適用除外制度は、(a)知的財産権の行使と認められる行為(21条)、(b)小規模事業者・消費者の相互扶助を目的とする一定の組合の行為(22条)、(c)指定商品・著作物に係る再販売価格維持行為(再販売価格の拘束)(23条)の三つの行為に係るものです。
本章では、Ⅱで(b)について、また、Ⅲで(c)について、それぞれ説明します。(a)については、論ずべきことがやや多いことから、次回に述べることとします。
また、独占禁止法以外の法律に規定されている適用除外制度は多数あります[1]。
Ⅱ 小規模事業者・消費者の相互扶助を目的とする一定の組合の行為
独占禁止法22条は、小規模事業者又は消費者の相互扶助を目的とする一定の組合の行為を適用除外とする制度を設けています。
同条の趣旨については、学説上、次のように説明されています。
第一に、単独では大企業に伍して事業活動をすることが非常に困難な小規模事業者や消費者が協同組合を組織して、市場において有効な競争単位又は取引単位として行動することは、独占禁止法の目的である公正かつ自由な競争の促進に資する効果を持つこととなること。
第二に、小規模事業者や消費者が協同組合を組織して共同販売や共同購入を行うことは、大企業による買い叩き、不当高価販売、売り惜しみ等を防止できることから、これらの者の実質的な取引の自由を確保するものであること。
(1) 適用除外となる組合
独占禁止法22条によって適用除外となる行為は、法律の規定に基づいて設立された組合であって、同条各号の要件を備えるものによるものでなければなりません。
(a) 法律の規定に基づいて設立された組合(同法22条本文)
「法律の規定に基づいて設立された組合」の意味について、通説は、同法22条の趣旨に照らして、民法上の組合(同法667条)などは含まず、各種協同組合法に基づき設立の認可を受けたものに限られると解しています[2]。
なお、独占禁止法22条の適用対象には、組合の他に、組合の連合会を含むものとされています(同条本文カッコ書)。
(b) 小規模事業者・消費者の相互扶助目的(同法22条1号)
同法22条1号は、適用除外となる組合の本質を明示したものであり、同条2号~4号及び但書は、これに由来するものと解されています。
(ⅰ) 小規模事業者
「小規模事業者」とは、本条の趣旨からして、単独では大企業と伍して事業活動をすることが困難なほどに事業規模が小さい事業者を意味するものと解されています。
しかし、これだけではあまりに抽象的である上に、ある事業者が小規模事業者に該当するかどうかは、業種、時期、地域などによって異なり、一義的に判断することは難しいため、この点の判断については、各協同組合法に、より明確な規定が置かれています[3]。
(ⅱ) 消費者
「消費者」とは、商品・役務を消費する個人を意味します。
消費者の相互扶助を目的とする組合は、消費生活協同組合(生協)です。
(ⅲ) 相互扶助目的
小規模事業者又は消費者の「相互扶助を目的とすること」とは、小規模事業者・消費者が相互に協力し、当該組合が大企業に伍して市場における有効な競争単位・取引単位となることにより、各組合員が経済的利益を享受して事業者としての存続・消費者としての便益を確保することを目的とすることをいいます。
(c) 設立・加入・脱退の任意性(独占禁止法22条2号)、議決権の平等性(同条3号)、法令・定款による利益分配の限度の設定(同条4号)
設立・加入・脱退の任意性、議決権の平等性が要件となっているのは、相互扶助のための自発的な人的結合体であることの反映であり、また、法令・定款による利益配分の限度の設定が要件となっているのは、結合体の非営利性の原則の反映と説明されています。
(2) 組合の行為
同法22条による適用除外となるのは、「組合の行為」です。
この「組合の行為」については、各協同組合法が定める「組合に固有の行為」を指すものと解するのが通説です。
この通説によれば、例えば、事業協同組合については、中小企業等協同組合法9条の2第1項が列挙する事業を遂行するために必要な行為に限って、独占禁止法の適用が除外されることとなります。同項のうち特に問題となるのは、1号の「生産、加工、販売、購買、保管、運送、検査その他組合員の事業に関する共同事業」です。ここで問題となってくるのは、このような組合としての具体的な事業活動を伴わずに、単に組合員の事業活動を制限するだけの行為――特に価格を制限する行為――が共同事業として独占禁止法の適用除外となるかどうかです。この点については、学説上は否定的に解する見解が有力ですが、公取委は肯定説を採っているとされています。
組合が他の事業者とするカルテルについては、独占禁止法の適用除外とはなりません。このようなカルテルは、協同組合法上、組合の事業として規定されておらず、また、組合制度の目的を達成するために合理的に必要であるとも言えないからです。
(3) 適用除外の限界
独占禁止法22条但書は、適用除外が認められない場合(消極的要件)として、(a)不公正な取引方法を用いる場合、(b)一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引上げることとなる場合、の二つを規定しています。
Ⅲ 指定商品・著作物に係る再販売価格維持行為
独占禁止法23条は、指定商品・著作物に係る再販売価格維持行為の適用除外制度について規定しています。
再販売価格維持行為(再販行為、再販と略称。「再販売価格の拘束」ともいう)の意味については前述しました(「独占禁止法について〔その12〕7.(3)」)。この行為は、本来は、同法2条9項4号に該当する違反行為です。
昭和28年の独占禁止法改正で、一定の要件の下に、再販売価格維持行為を適用除外とする規定(24条の2(現23条))が設けられました。
この適用除外の背景には、ある種の商品について再販売価格維持を認める商慣行があったと言われます。すなわち、生産者が商標を附した商品については、生産者が、その包装や宣伝を行い、また品質・価格につき消費者に直接責任を負うのであり、消費者もその商品を、自己が直接購買する販売業者の商品としてより、むしろその商標を附した生産者の商品として買います。このため、販売業者の地位は、生産者の取次店に近いものとなります。また、商標を附した商品は、同一の生産者が生産したものであることが明確に識別することができるため、多数の販売業者により販売される場合、販売業者間の価格の差が消費者に歴然となります。このため、販売業者間の価格競争を激化させやすく、また、その商品が「おとり商品」として用いられることも多くなります。その場合、影響は多くの販売業者に波及し、販売業者の経営を不安定にするとともに、生産者の商標に対する信用を害することもあり得ます。このように、商標を附した商品に関して攪乱されやすい販売秩序を維持するために、再販売価格維持制度を設ける必要があるものとされたのです。
同法23条が適用除外の対象とする商品には2種類があります。
第一は、公取委の指定する商品であって、その品質が一様であることを容易に識別することができるものです(同条1項。指定再販)。この指定については、(a)当該商品が一般消費者により日常使用されるものであること、(b)当該商品について自由な競争が行われていること、という要件が必要とされています(同条2項)。この(a)の要件の理由は、日常使用品は、商標制度が発達しており、また多数の販売業者が極めて多数の消費者に対して販売するものであるため、販売秩序が乱れやすく再販売価格維持の必要が大きいからです。(b)の要件の理由は、そこにいう「競争」とは主として生産者間の競争を念頭に置いたものであり、再販売価格維持により特定の生産者の商標を附した商品の価格競争(ブランド内競争)を制限しても、生産者間の競争(ブランド間競争)が行われている場合には、不当に高い価格が維持されることはあり得ないからです。この指定商品には、9商品[4]が指定されていましたが、その後、公取委の運用方針が厳格となり、徐々に指定商品が取消され、平成9年4月以降は、指定商品は存在していません。
第二は、著作物です。これは、第一の場合とは異なり、法律が直接、対象商品を明定しています(同条4項。法定再販)。公取委の運用で著作物として取扱われているものには、書籍、雑誌、新聞、レコード盤、音楽用テープ、音楽用CDの6品目があります。著作物が対象とされた理由としては、定価販売の商慣行が確立していたこと、商品の性質上文化的価値が認められること等が挙げられています。この著作物の法定再販は、現在まで存置されています。
独占禁止法23条に関して解釈上注意すべきことを若干述べておきます。
第一に、同法23条により適用除外となる行為は、生産者等の個別の事業者が相手方たる販売業者と個々にその商品の再販売価格を決定・維持するためにする正当な行為(個別的再販行為)です(同条1項本文)から、(a)当該事業者が競争関係にある他の事業者と共同して再販売価格を拘束する行為、(b)相手方たる販売業者が競争関係にある他の販売業者と共同して、再販売価格の拘束を受ける場合、(c)事業者団体が再販売価格を拘束し、又は事業者団体が構成事業者間に締結された再販売価格維持契約の実効性を確保する行為を行う場合、などは、適用除外とはならないものとされています。
第二に、前述したように、公取委の運用により同法23条4項にいう「著作物」として取扱われているのは、書籍、雑誌、新聞、レコード盤、音楽用テープ、音楽用CDの6品目に限定されています[5]。
前述のように、指定商品は全て取消され現在は存在しません。そして、独占禁止法の適用除外制度が全般的に見直され減少してきている流れにあることを考えると、再び、指定商品が指定されることとなることは極めて想定し難いものと考えられます。
したがって、現在のところ、再販売価格維持行為の適用除外制度については、著作物再販に係るもの(著作物再販制度)を存続させるべきかどうかに焦点が絞られています。
(1) 著作物再販制度の存廃に関する議論
著作物再販制度の維持の存廃に関しては、鋭い見解の対立があります。主に議論の対象となっている書籍・雑誌、新聞について存続論と廃止論の根拠はそれぞれ次のとおりです。
第一に、書籍・雑誌については、存続論の根拠は、(a)文化商品である本について経済効率の面から流通制度を考えることは不適当であること、(b)再販制度が廃止されると価格競争が激化して、書店の品揃えは売れ筋のみに偏り、出版社は売れ筋のみを発行するようになること、(c)地域の最寄り書店が淘汰されたり、書店間の価格差が発生する結果、特に地方の消費者、高齢者、児童等に不利益を与えることなどです。他方、廃止論の根拠は、(ⅰ)消費者が書店を選択する等の努力をして良い商品を安く購入したいというニーズは満たされるべきであること、(ⅱ)再販制度を廃止して市場原理に任せれば、優れた内容のものを含めたより多様な書籍・雑誌が発行され、市場の活性化につながること、(ⅲ)低価格販売を行う書店や価格以外の工夫をする書店等消費者のニーズに対応した魅力ある書店が増加することなどです。
第二に、新聞については、存続論の根拠は、再販制度が廃止されると価格競争が激化して、販売促進経費が増加する結果、販売店が経営効率化のために過疎地等において戸別配達を放棄したり、割高の価格を設定すること等により、新聞情報への平等なアクセスが阻害され、また、取材経費が圧縮されて紙面の質が低下すること等により、民主主義の基盤が維持できなくなることなどです。他方、廃止論の根拠は、(a)消費者のニーズの強い戸別配達を販売店が放棄するとは考えにくく、再販制度と戸別配達の維持との因果関係は成り立たないこと、(b)競争の結果、紙面の質が低下することは市場経済の中では考えられないこと、(c)再販制度が存在し、読者が販売店を選べないため、新聞販売における消費者のニーズが反映されないことなどです。
(2) 著作物再販制度に関する公取委の対応
公取委は、著作物再販制度の存廃について検討した結果、平成13年3月、「同制度の廃止について国民的合意が形成されるに至っていない状況にある。したがって、現段階において独占禁止法の改正に向けた措置を講じて著作物再販制度を廃止することは行わず、当面同制度を存置することが相当であると考える。」旨の結論を公表しました[6]。
この公取委の結論は、著作物再販制度の廃止について、関係業界から寄せられた強い反発、更にはそれを踏まえた各政党の消極的態度の結果として、本来の意図を当面断念せざるを得ないこととなったものです。
[1] 例えば、保険業法に基づく保険カルテル、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律に基づく合理化カルテル、損害保険料率算出団体に関する法律に基づく基準料率の算出、著作権法に基づく商業用レコードの二次使用料等に関する取決め等。
[2] ここにいう協同組合法には、中小企業等協同組合法、農業協同組合法、水産業協同組合法、信用金庫法、森林組合法、消費生活協同組合法などが含まれます。
[3] 例えば、事業協同組合、火災共済協同組合及び信用協同組合については、その組合員たる事業者が、(ア)資本金額又は出資総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業者については5千万円、卸売業を主たる事業とする事業者については1億円)を超えない法人たる事業者、又は、(イ)常時使用する従業員の数が300人(小売業を主たる事業とする事業者については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業者については100人)を超えない事業者であるものは、独占禁止法22条1号の要件を備える組合とみなされます(中小企業等協同組合法7条1項1号)。そして、事業協同組合又は信用協同組合であって、上記(ア)又は(イ)に掲げる者以外の事業者を組合員に含むものがあるときは、その組合が独占禁止法22条1号の要件を備える組合に該当するかどうかの判断は、公取委の権限に属するものとされます(中小企業等協同組合法7条2項。なお、同条3項)。
[4] 化粧品、染毛料、練歯磨き、家庭用石鹸・家庭用合成洗剤、雑酒、キャラメル、医薬品、写真機、既製エリ付ワイシャツの9商品。
[5] これは、昭和28年改正で設けられた著作物再販の適用除外制度が、当時の書籍、雑誌、新聞及びレコード盤の定価販売の慣行を追認する趣旨で導入されたものとされているところ、その後、音楽用テープ及び音楽用CDについては、レコード盤とその機能・効用が同一であることからレコード盤に準ずるものとして取扱うこととし、これら6品目に限定して制度の対象とすることとしたことによるものです。審判審決平成13年8月1日審決集48巻3頁(ソニー・コンピュータエンタテインメント事件)においては、被審人は、ゲームソフトが23条4項の「著作物」に該当し、その再販売価格の拘束は独占禁止法適用除外となると主張したのに対し、審決は、上記の趣旨を述べて被審人の主張を斥けました。
[6] 平成13年3月23日公取委報道発表資料「著作物再販制度の取扱いについて」。
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