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<20 労働者が業務外に犯罪行為を行なった場合は懲戒解雇事由となるか> プロシード法律事務所代表弁護士の佐藤...
- 2023.10.01
過去2回の私のブログ記事においては、独占禁止法の解説を行いました。
今回は、独占禁止法の解説は1回お休みをいただいて、最近、話題になった行政法に関する判決について紹介します。
それは、ふるさと納税について泉佐野市を対象から除外する国の措置が、違法であるとして最高裁判所によって取り消された判決です(最判令和2年6月30日)。
この事件については、TVニュースや新聞でも大きく報道されたので、ご存じの方も多いと思います。
この事件は、ふるさと納税という社会的な注目度が高い制度に関する事件であるとともに、行政法学上も地方行政に対する国の関与の在り方という問題について関心を呼ぶものです。さらに、私自身としては、社会一般の常識と法律の条文の厳格な解釈とが背反する場合にいかなる対応を採るべきかという点について、大変大きな興味を持たせる事件だと思います。
なお、最高裁のホームページ(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1)から、最高裁や下級裁判所の主だった判決にアクセスすることができます。
行政法トピック〔その1〕
1. ふるさと納税について
(1) ふるさと納税とは?
「ふるさと納税」とは、都道府県、市区町村に対する寄附について税制上の特典を受けられるものです。
一般的に自治体に寄附をした場合には、確定申告を行うことで、その寄附金額の一部が所得税及び住民税から控除されるのですが、ふるさと納税では、原則として寄附額のうち2,000円を除いた全額が控除されることとなります。
この制度は、平成20年の地方税法の改正で設けられました。
(2) ふるさと納税の意義
ふるさと納税の意義としては、次の3つが挙げられています(総務省ホームページによる)。
(a) 納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
(b) 生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
(c) 自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。
(3) ふるさと納税の額の推移
こうして、創設されたふるさと納税は、以下のとおり、ほぼ年々その金額を増加させてきています(総務省ホームページによる)。
※下記の数値のうち、左の欄は寄附金額(億円)、右の欄は寄附件数(万件)である。
平成20年度(2008年度) 81.4 5.4
平成24年度(2012年度) 104.1 12.2
平成27年度(2015年度) 1652.9 726.0
平成28年度(2016年度) 2844.1 1271.1
平成29年度(2017年度) 3653.2 1730.2
平成30年度(2018年度) 5127.1 2322.4
令和元年度(2019年度) 4875.4 2333.6
2. ふるさと納税に関する問題の発生と国の措置
(1) 返礼品競争の発生
このようにして、一見結構ずくめのように見えるふるさと納税制度にも、問題が生じてきました。
それは、自治体の間において、できるだけ多くの寄附金を獲得するために、返礼品競争が始まったことです。すなわち、自治体の中には、過度な返礼品を寄附者に提供することによって、他の自治体の住民からの寄附金を得ようとする動きが顕在化してきたのです。
上記1.(3)に示したようにある時期から寄附金額が激増しているのは、制度の意義が周知されてきたことも一因かも知れませんが、何より返礼品競争の激化によるものと推測されます。
例えば、今回取り上げる最高裁判決で問題となった泉佐野市においては、次のとおり寄附金額が激増しています(本件最高裁判決の判決文による)。
ふるさと納税としての寄付金額
平成23年度(2011年度)まで 年間1000万円前後
平成27年度(2015年度) 約12億円
平成28年度(2016年度) 約35億円
平成29年度(2017年度) 約135億円
平成30年度(2018年度) 約498億円
(注)上記のうち、平成29年度と同30年度の寄附金額は、全地方公共団体のうち最も多かった。
泉佐野市が寄付者に提供した返礼品の一部を示せば、次のとおりです(本件最高裁判決の判決文による)。
(a) 平成30年11年1日から同31年3月31日までの間において、同市が提供した1026
品目の返礼品の返礼割合(寄附金額に対する返礼品の調達価格の割合)は平均43.5%、
そのうち745品目は地場産品ではないものであった。
(b) 平成30年12月及び同31年2月から3月までの間、「100億円還元キャンペーン」等と称し、従来の返礼品に加えて寄附金額の3~20%相当のアマゾンギフト券(電子商取引サイトであるアマゾンにおいて取り扱われる商品等の購入に利用できるもの)を交付するとして、寄附金の募集をした。
(c) 平成31年4月2日から令和元年5月31日までの間、「300億円限定キャンペーン」、
「泉佐野史上、最大で最後のキャンペーン」等と称し、従来の返礼品に加えて寄附金額
の10~40%相当のアマゾンギフト券を交付するとして、寄附金の募集をした。
(2) 問題の所在
このような返礼品競争の激化には、どういう問題があるのでしょうか。
ふるさと納税制度は、上記1.(2)に述べたように、納税者がふるさとやお世話になった地域に感謝し、若しくは応援する気持ちを伝えること等を可能とし、そのような目的にかなった納税者による地方公共団体への寄附を促進するという意義を有するものです。そして、ふるさと納税制度により、寄附者である納税者が本来の住所地である地方公共団体に納税すべき税の一部が寄附された地方公共団体に移転する効果を伴うものとなり、住所地の地方公共団体の税収が減少することとなります。
そうであれば、個々の地方公共団体が、この制度の本来の目的に沿った運用をすることが想定されており、各地方公共団体が、行政運営上、このような税制上の政策目的を阻害しないよう一定の節度を持った取組みを行うことが制度の前提となっているといえます。
そうであるにもかかわらず、華美な返礼品を提供することにより、過度な金額の寄附金を募ろうとすることは、制度の趣旨にかんがみ、大きな疑問が生ずることとなります。すなわち、寄附者の中に、感謝や応援という心情からではなく、ただ偏に返礼品欲しさに寄附をする者が多数出て来ることは、制度本来の趣旨とは乖離したこととなるのではないかと思われます。
(3) 国の措置
このような問題が、しばしばマス・メディアでも取り上げられるようになりました。
マス・メディアの論調には、地方公共団体の自助努力に好意的なものもあったかも知れませんが、批判的なものの方が多かったように思います。
国のレベルにおいても、地方財政審議会や与党(自由民主党及び公明党)の税制調査会でこの問題が議論され、過度な返礼品競争に対しては制度的対応が必要であるという意見が高まってきました。
地方税制を所管する総務省においては、地方公共団体に対して、過度な返礼品競争の自粛を求める通知を数回にわたり発しました。その内容は、返礼割合を3割以下とすること、返礼品を地場産品(当該地方公共団体の区域内で生産されたものや同区域内で提供されるサービス)に限ることなどを求めるものでした。
この通知は、法的な性格としては、地方自治法245条の4第1項に基づく「技術的な助言」としてなされたものでした。これは、あくまで助言であり、強制力を持つものではありません(同法247条3項)。
このような通知にもかかわらず、依然として一部の地方公共団体が過度な返礼品競争を継続しているため、総務省は、ふるさと納税制度の対象となる寄附金について、所定の基準に適合する地方公共団体として総務大臣が指定するものに対するものに限られるという制度(指定制度)を導入することが必要であるという判断に立ち、地方税法の改正法案を作成しました。この改正法案は、平成31年(2019年)3月27日に成立し(平成31年法律第2号)、令和元年(2019年)6月1日から施行されました。
3. 泉佐野市と国との紛争
(1) 紛争の経緯
上記の指定制度の創設を受け、総務省は、大阪府泉佐野市、和歌山県高野町、佐賀県みやき町、静岡県小山町の4市町をふるさと納税制度の対象から除外しました。
これを受けて、泉佐野市と国との間で法的な紛争が発生しました。
本件の経緯を時系列的に並べると次のとおりです。
平成31年(2019年)3月27日 地方税法改正法が成立。
4月 1日 総務大臣が地方税法に基づき、指定制度の基準となる告示を公布。
4月 5日 泉佐野市長が指定を受けるための申出書を総務大臣に提出。
令和元年(2019年) 5月14日 総務大臣が泉佐野市を指定しないこととし、同市市長にその旨通知。
6月 1日 地方税法に基づく指定制度が施行(上記告示も適用)。
6月 5日 泉佐野市長が、国地方係争処理委員会に対し、総務大臣は泉佐野市への不指定を取り消し、指定をするべきである旨の勧告を求める審査の申出〔注1〕。
9月 3日 国地方係争処理委員会が、総務大臣に対して、泉佐野市長からの指定の申出について、再度の検討を行うよう勧告。
10月 3日 総務大臣が、国地方係争処理委員会の勧告を受けて再検討を行った結果、不指定の判断を維持。
11月 1日 泉佐野市長が、地方自治法251条の5第1項2号に基づき、総務大臣を相手取って、不指定の取消しを求めて、大阪高等裁判所に訴えを提起〔注2〕。
令和2年(2020年) 1月30日 大阪高裁が、原告泉佐野市長の請求を棄却する判決(被告総務大臣の勝訴)。
2月 6日 泉佐野市長が最高裁に上告受理の申立て。
6月 2日 最高裁が口頭弁論を実施〔注3〕。
6月30日 最高裁が、原判決を破棄し、本件の不指定を取り消す判決(上告人泉佐野市長の勝訴)。
(2) 補足的説明
本件の主たる争点についての説明は後述することとし、上記(1)の経緯に関連して、若干の補足的説明をしておきます。
第一は、国地方係争処理委員会についてです(上記注1)。 同委員会については耳慣れない方が多いかも知れません。
国地方係争処理委員会とは、総務省に設置された機関で、優れた識見を持つ者のうち両議員の同意を得て総務大臣が任命する5人の委員をもって組織されています(地方自治法250条の7~250条の9)。同委員会の主たる任務は、地方公共団体の長等の執行機関が、その事務に関する国の関与のうち公権力の行使に当たるものに不服があるときに、国の行政庁を相手方として申し出た審査をすることです(同法250条の13第1項)。同委員会は、審査の結果、国の関与が違法・不当であると認めるときは、国の行政庁に対し、必要な措置を講ずべきことを勧告します(同法250条の14第1項)。
第二は、泉佐野市長が総務大臣を被告として提起した訴えについてです(上記注2)。国地方係争処理委員会に審査の申出をした地方公共団体の執行機関は、国地方係争処理委員会の審査の結果・勧告や勧告を受けた国の行政庁の措置に不服があるときは、高等裁判所に対し、国の行政庁を被告として国の関与の取消し等を求める訴えを提起することができます(同法251条の5第1項)。
この訴訟は行政事件訴訟の一種です。行政事件訴訟は、私人と国・公共団体の間で争われることが多く、その中でも行政庁の行った処分(不許可処分、営業停止処分等)の取消しを私人が求める「処分の取消しの訴え」(行政事件訴訟法3条2項)が最も多いと思われますが、まれには国・公共団体の機関相互間で争われるものもあります。これは、「機関訴訟」(同法6条)と呼ばれる特殊な訴訟です。
第三は、最高裁が口頭弁論を行ったことについてです(上記注3)。
裁判所は訴訟について口頭弁論をしなければならない(民事訴訟法87条1項)のが原則です。「口頭弁論」とは、裁判所の面前でする当事者の弁論に基づいて審理を行うことです。このように、口頭弁論が義務付けられているのは、裁判所が公開の法廷で当事者の口頭での主張を直接よく聴いて審理を行うという手続的な保障を当事者に与えるためです。
この原則には若干の例外があり、その一つとして、上告裁判所(本件の場合は最高裁)は、上告状、上告理由書、答弁書その他の書類により、上告を理由がないと認めるときは、口頭弁論を経ないで、判決で上告を棄却することができることとなっています(同法319条)。逆に言えば、上告裁判所は、上告を認容して原判決を破棄するときは、原則に戻って、口頭弁論をしなければならないこととなります。したがって、上告裁判所が口頭弁論をする場合には、原判決を破棄する可能性が高いこととなります。
私は、正直に申し上げて、本件について最高裁が口頭弁論を開くこととなったという報道に接したときには、意外感を持ちました。本件においては、泉佐野市によるあまりに常軌を逸しているように見える返礼品による寄附金集めは、ふるさと納税制度の趣旨を逸脱するものであり、到底認められないと思っていたからです。
しかし、最高裁は、本件において、原判決を破棄して、泉佐野市長の上告受理申立てを認容したのです。
4. 本件の争点
以下においては、本件における争点について述べます。それは、指定制度の基準を過去に遡って適用することができるか否かということなのですが、それに先立ち、この争点を考える際の基盤となる関与法定主義について、まず説明します。
(1) 関与法定主義
国は、地方公共団体の事務の処理について、関与を行うことがあります。この「関与」には、助言・勧告、資料提出の要求、是正の要求(地方公共団体の事務処理が違法・不適正なときに是正・改善のため必要な措置を求めること)、同意、許可・認可・承認、指示、代執行(地方公共団体の事務処理が違法であるとき等に、是正のための措置を当該地方公共団体に代わって行うこと)等、種々の形態があります(地方自治法245条)。
国は地方公共団体の上級機関ではありませんから、国の行政庁は、自身が所管する法律の施行に係る地方公共団体の事務について、いかなる関与でも任意になし得るわけではありません。この点において、本省とその出先機関(地方支分部局)との関係とは根本的に異なっています。そこで、地方自治法は、国の関与は、法律又はこれに基づく政令によらなければならないという規定を置いています(同法245条の2)。これを「関与法定主義」といい、国の関与の在り方の基本とされています。
また、これに関連して、国の関与は、「その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない」という規定も置かれています(同法245条の3第1項)。
すなわち、地方公共団体の事務の処理について、国が関与を行う場合には、明確な法令(法律又はこれに基づく政令)上の根拠がなければならず、また、その関与は過剰なものであってはならないこととなっています。
(2) 指定制度の基準の遡及適用の可否
(a) 指定制度の対象となる地方公共団体が適合すべき地方税法上の基準
ふるさと納税制度に係る指定制度は地方税法37条の2に規定が設けられており、同条には、指定制度の対象となる地方公共団体が適合すべき基準として、次の3つが挙げられています。
(ア) 地方公共団体による寄附金の募集の適正な実施に係る基準として総務大臣が定める基準(同条2項柱書。「募集適正基準」)
(イ) 地方公共団体が個別の寄附金の受領に伴い提供する返礼品等の調達に要する費用の額が、いずれも当該地方公共団体が受領する寄附金の額の30%相当額以下であること(同条2項1号)。
(ウ) 地方公共団体が提供する返礼品等が当該地方公共団体の区域内において生産された物品又は提供される役務その他これらに類するものであって、総務大臣が定める基準に適合するものであること(同条2項2号。(イ)と(ウ)を併せて「法定返礼品基準」)。
(b) 総務大臣による告示
総務大臣は、平成31年4月1日、上記の地方税法37条の2第2項に基づき、「募集適正基準等を定める告示」(平成31年総務省告示第179号)を発し、令和元年6月1日から適用することとしました。
この告示は、その1条において、本件告示は、ふるさと納税制度が、ふるさとやお世話になった地方公共団体に感謝し、若しくは応援する気持ちを伝え、又は税の使いみちを自らの意思で決めることを可能とすることを趣旨として創設された制度であることを踏まえ、その適切な運用に資するため、指定に係る基準等を定めるものとする、と規定しています。
また、この告示の2条には、募集適正基準が規定されていますが、その3号には、平成30年11月1日から申出書を提出する日までの間に、本件告示1条に規定する趣旨に反する方法により他の地方公共団体に多大な影響を及ぼすような寄附金の募集を行い、当該趣旨に沿った方法による寄附金の募集を行う他の地方公共団体に比して著しく多額の寄附金を受領した地方公共団体でないこと、という規定が置かれています。
(c) 原審の判決
原審大阪高等裁判所は、上記の本件告示2条3号は、地方税法37条の2第2項の委任の範囲内で定められた適法なものであると判断した上で、泉佐野市は本件告示2条3号に定める基準を満たさず指定の要件を欠くから、不指定には理由があり、本件不指定は適法であるとして、泉佐野市長の請求を棄却しました。
(d) 最高裁の判決
これに対し、最高裁判決は、本件告示2条3号のうち、地方税法改正法の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したもので無効であるから、当該部分に抵触することを理由に泉佐野市に対してなされた不指定は違法であり、取り消すと判示しました。
すなわち、本件告示2条3号は、上記のように、平成30年11月1日から申出書を提出する日までの間に、本件告示1条に規定する趣旨に反する方法により寄附金を募集した地方公共団体を指定の対象から除外しているのですが、地方税法改正法が施行されたのは翌年の令和元年6月1日であるところ、それより前において告示1条を適用することは募集適正基準を遡及適用することとなります。しかしながら、そのような遡及適用を認める法令上の根拠は存在しないため、告示2条3号はその限りで無効であり、遡及適用によって泉佐野市に対して行った不指定は違法なものとして取り消すということです。
なお、本件の争点はもう一つあり、それは、現に泉佐野市が実施している寄附金の募集の取組の状況に鑑み、法定返礼品基準(前出4.(2)(a)(イ)(ウ))に適合するとは認められないとした総務大臣の判断の妥当性です。最高裁は、これについて、地方税法の改正法施行前における泉佐野市の返礼品の提供の態様をもって、同施行後においても同市が同様の態様により返礼品等の提供を継続するものと推認することはできないとして、上記の総務大臣の判断を違法としました。
本件判決を受けて、総務大臣は、令和2年7月3日、指定制度の発足時に遡って、泉佐野市に対する不指定を取り消したと報道されています(令和2年7月4日付け新聞各紙)。
5. 雑感
以上のように、泉佐野市に対するふるさと納税制度に係る不指定は取り消されました。
関与法定主義の趣旨に厳格に則って本件のような判断を下した最高裁に対しては、さすがと敬意を表したいと思います。最高裁が口頭弁論を実施する旨の報道に接したときに意外感を持った私は軽率であり、恥じ入るばかりです。
しかしながら、同時に言いたいことは、法律論としては最高裁の言うとおりであるとしても、過度な返礼品競争を展開してきた泉佐野市をふるさと納税制度の対象とすることには、釈然としないものを感じます。
このことは、実は、最高裁においても同様であったかも知れません。というのは、最高裁の判決文の中には、「本件不指定に至るまでの同市(泉佐野市――岩本注)の返礼品の提供の態様は、社会通念上節度を欠いていたと評価されてもやむを得ない」という記述があります(判決理由5(2))。また、林景一裁判官は、多数意見の結論に同調しつつ、補足意見として、「上告人(泉佐野市長――岩本注)の勝訴となる結論にいささか居心地の悪さを覚えた」「居心地の悪さの原因は、泉佐野市が、殊更に返礼品を強調する態様の寄附金の募集を、総務大臣からの再三の技術的な助言に他の公共団体がおおむね従っている中で推し進めた結果、集中的に多額の寄附金を受領していたことにある。特に、同市が本件改正の成立後にも返礼割合を高めて募集を加速したことには、眉をひそめざるを得ない」と書いています。
私は、林裁判官の補足意見に大いに共鳴するものを感じます。
国民からの少しでも多くの寄付金を集めるために、過度な返礼品を提供するなどということは、公的な存在である地方公共団体がすべきこととは到底思えません。
最高裁の多数意見も、募集適正基準を遡及適用することがそもそも許されないと言っているわけではなく、それを認める法令上の根拠がないから許されないというだけのことと解されます。これは、泉佐野市の所業を道義的・倫理的に正しいと言っているわけでは毛頭なく、遡及適用の根拠規定の欠如という、言わば法技術的な理由で、泉佐野市長の逆転勝訴を認めたに過ぎないものと思います。
そして、併せて言っておきたいことは、返礼品目当てに寄附をする国民の態度にも大きな問題があると思います。ふるさとやお世話になった地方公共団体に感謝・応援の気持ちで寄附をするということは、浄財を投じるということです。浄財は、何らの見返りも求めないからこそ、浄財となり得ると思います。私たち一人一人の国民の多くは、必ずしも生活に十分な余裕があるわけではありません。しかし、そのような国民が、格別の思いを寄せる地方公共団体に対して、言わば貧者の一灯として投じる浄財こそが、ふるさと納税制度の趣旨に適合すると言えるのではないでしょうか。
以上述べたことは、法律論ではなく、私の個人的な雑感に過ぎません。
皆様は、どのようにお考えでしょうか。
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