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  • 2020.12.27

独占禁止法について〔その6〕

2. 不当な取引制限の要件
前回は、不当な取引制限の要件のうちの共同行為としての相互拘束・遂行までを説明しま
した。
今回は、残る要件である「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と「公共の利益に反して」について説明いたします。
前者については、「一定の取引分野」と「競争の実質的制限」とに分けて説明します。
今回の説明はやや長くなりますが、これらは、いずれも独占禁止法解釈上の重要な論点ですので、御高覧いただければ幸いです。

(3) 一定の取引分野
「一定の取引分野」については、私的独占の箇所でも簡単に説明しましたが、ここで、やや詳しく述べたいと思います。
(ア) 総説
「一定の取引分野」は、私的独占(独占禁止法2条5項)、不当な取引制限(同法2条6項)、事業者団体の禁止行為(同法8条1号)、会社の株式保有制限(同法10条1項)等の規定に用いられている重要な観念です。
「一定の取引分野」とは、相互に競争関係にある供給者群と需要者群との間の取引の場を意味します。これは、経済学で言う市場と同義です(以下の説明では、適宜、「市場」という語も用います)。
独占禁止法違反行為が成立するか否かを検討する上で、一定の取引分野をどの範囲に画定するかは、極めて重要です。というのは、ある一つの行為が競争を実質的に制限しているかどうかの判断は、一定の取引分野を狭く(例えば、大阪市、あるいは大阪市北区など)解すれば肯定される可能性が高まり、一定の取引分野を広く(例えば、関西圏、あるいは日本全国)解すれば否定される可能性が高まるからです。
以下には、一定の取引分野の画定について詳細に記述している公取委のガイドライン「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(平成16年5月31日。「企業結合審査ガイドライン」)の内容に依拠しつつ、説明することとします。

(イ) 一定の取引分野の画定の基本的考え方
企業結合審査ガイドラインは、一定の取引分野の画定の基本的考え方として、「一定の取引分野は、企業結合により競争が制限されることとなるか否かを判断するための範囲を示すものであり、一定の取引の対象となる商品・役務(中略)の範囲、取引の地域の範囲(以下「地理的範囲」という。)等に関して、基本的には、需要者にとっての代替性という観点から判断される。また、必要に応じて供給者にとっての代替性という観点も考慮される。」と述べています(同ガイドライン第2‐1)。
このように、一定の取引分野を画定するには、基本的に需要者にとっての代替性という観点から判断されます。次に、必要に応じて供給者にとっての代替性という観点も考慮されます。
それでは、需要者にとっての代替性、供給者にとっての代替性は、どのように考慮されるのでしょうか。
企業結合審査ガイドラインが採用している考え方(同ガイドライン第2‐1)は、欧米において市場画定に際し用いられているSSNIPテストと呼ばれるものです。
SSNIPテストとは、ある商品について、独占的な供給者の存在を仮定し、その供給者が利潤最大化を図るため、小幅ではあるが実質的かつ一時的ではない価格引上げ(Small but Significant and Nontransitory Increase in Price = SSNIP)を行ったときに利益を得られるかどうかを検討し、代替商品に需要が移行しなくなるために利益が得られることとなる最小の範囲を市場として画定しようとする手法です。すなわち、ある商品Aの価格引上げによる利益を失わせるだけの数の需要者が他の商品Bに移行すれば、商品Bも商品Aと代替関係にあるものとして同一の市場に含めることとします。その市場で再度同じテストを行って、やはり独占的供給者の利益を失わせるだけの数の需要者が他の商品Cに移行すれば、商品Cも商品A・Bと代替関係にあるものとして同一の市場に含めます。このようなテストを繰返して、価格引上げによる利益を失わせるだけの数の需要者が他の商品に移行しなくなり、SSNIPが利益をもたらす最小の商品の集合を市場(一定の取引分野)として画定しようとするものです。
上記にいう「小幅ではあるが実質的かつ一時的ではない価格引上げ」が具体的にどの程度の価格引上げを指すのかについては、通常、1年間の5~10%の値上げが一応の目安とされます。
一定の取引分野の画定は以上の考え方に基づいて行われます。以下においては、一定の取引分野に画定において特に重要な地理的範囲について、留意すべき事項を述べておきましょう。

(ウ) 地理的範囲
(a) 総説
一定の取引分野の地理的範囲は、日本全国にわたる場合もあるし、特定地方のごく狭い範囲に限られる場合もあります。ごく大まかに言えば、同一の商品であっても、流通経路における上流(いわゆる川上)の段階は、下流(川下)の段階に比べて、その市場の地理的範囲はより広い傾向があると言えます。このような傾向が生ずるのは、消費者が商品選択を行う地理的範囲が限定されていることの反映であると言えましよう。

(b) 国境を越える一定の取引分野の成立の有無
国境を越えて国際的な規模で一定の取引分野が成立するでしょうか。我が国をその一部として含む国際市場を一定の取引分野と考えることができるかどうかを考えてみましょう。
この問題については、従来、否定的に解する学説が有力であり、実務も同様の立場にあるとされてきました。その理由としては、我が国の独占禁止法が保護するのは我が国の市場における競争であることが挙げられていました。
しかし、近年、公取委の実務は、肯定説に転じたようです。すなわち、企業結合審査ガイドラインにおいて、「国境を越えて地理的範囲が画定される場合についての考え方」(第2‐3‐(2))として、「ある商品について、内外の需要者が内外の供給者を差別することなく取引しているような場合には、供給者が日本において価格が引き上げようとしても、日本の需要者が、海外の供給者にも当該商品の購入を代替し得るために、日本における価格引上げが妨げられることがあり得るので、このような場合には、国境を越えて地理的範囲が画定されることとなる。」と記述されています。また、学説上も、肯定説が増加してきているように見受けられます。
思うに、そもそも一定の取引分野とは競争が行われる場としての市場を意味する観念ですから、経済の実態に即してその範囲を画定すべきであると考えられます。それゆえ、国際市場で競争が行われている場合には、その国際市場をそのまま一定の取引分野と認定すべきだと思われます。そこにおける競争が独占禁止法の保護の対象となるかどうかは、一定の取引分野の画定においては考慮する必要がなく、当該行為の効果(次に述べる競争の実質的制限)の判断において考慮されるべき問題です。それゆえ、近年の肯定説が妥当であると思います。

(4) 競争の実質的制限
「競争の実質的制限」については、私的独占の箇所で説明しました。
ここでは、以下の(ア)では、私的独占の箇所で述べたことに若干の補足をし、続いて、(イ)では、どの時点において競争の実質的制限の要件が充足することとなり不当な取引制限が成立するのかという問題、すなわち、不当の取引制限の既遂時期について説明します。

(ア) 共同行為としての相互拘束・遂行と競争の実質的制限
複数の事業者間の合意に基づき、相互拘束の要件又は遂行の要件が満たされることのみで不当な取引制限が成立するのではなく、それらとは別個に、それによって競争の実質的制限という効果がもたらされることが必要です(その他に、以下の(5)に述べる「公共の利益に反して」(反公益性の要件)の充足が必要)。このことは、2条6項における不当な取引制限の定義規定から明らかです。
もっとも、私的独占の場合とは異なり、不当な取引制限の場合には、複数の事業者が合意の下に相互にその事業活動を拘束し又は遂行するという共同行為は、競争の実質的制限がもたらされることがなければ、行為の主体である事業者には何の利益も生じませんから、それが実効性をもって維持されているということは、取りも直さず、その効果として競争の実質的制限がもたらされていることを推認させることとなります。それゆえ、不当な取引制限における競争の実質的制限の存在を認定することは、比較的容易であると言うことができます。
この点については、特に価格カルテルや数量カルテルなどを念頭に置いて、単に競争の実質的制限が推認されるというにとどまらず、上記のような共同行為が実効的に維持されていることをもって、直ちに競争の実質的制限の要件も充足することとなるという説明をする学説の方が多いように見受けらます。これは、米国反トラスト法上の「取引制限」の解釈に関する「当然違法(per se illegal)の原則」(※)を我が国の独占禁止法の解釈にも導入しようとするものであると考えられます。
しかしながら、私は、我が国の独占禁止法上の不当な取引制限の解釈として、当然違法の原則を採ることはできないと考えています。その理由は、⓵反トラスト法上の取引制限 とは異なり、不当な取引制限は、その要件として、共同行為の要件とは別個に競争の実質的制限の要件を設けているのであるから、前者の充足により自動的に後者の充足が認定されると解することはできず、後者の充足についても別個独立した判断を行うことが必要であること、⓶立法の経緯からみても、制定当初の独占禁止法に設けられていた旧4条(特定の共同行為の禁止)は、不当な取引制限の予防的規定として当然違法の原則を明文化したものであったところ、そこで禁止されている行為は違法とすべき理由はないという理由で昭和28年改正で削除されたことを考えると、制定当初の独占禁止法当時から存続している不当な取引制限の解釈に当然違法の原則を導入するのは無理であること、です。

(※)価格協定、数量制限協定、市場分割協定等の一定の行為類型については、本質的に競争制限的性格を持つものであるから、個別具体的にその行為の反競争的効果の立証をする必要はなく、形式的な行為類型が備わるだけで直ちに違法とするという原則。
米国反トラスト法上、取引制限の禁止を規定したシャーマン法1条は、「数州間若しくは外国との取引又は通商を制限するすべての契約、トラストその他の形態による結合又は共謀は、これを違法とする」と規定しており、我が国の独占禁止法2条6項の不当な取引制限の定義における競争の実質的制限のような市場に及ぼす効果の発生が要件とはなっていません。

(イ) 不当な取引制限の既遂時期
複数の事業者による共同行為は、ある一定の時間の経過を伴って行われることとなるが、不当な取引制限が成立するのは、いかなる時点でしょうか。これは、不当な取引制限の既遂時期の問題です。
この問題について、あり得る考え方は、次の四つでしょう。
(a) 合意時説
合意が成立した時点で、不当な取引制限が成立するとする説。
(b) 着手時説
合意内容の実施に着手した時点で、不当な取引制限が成立するとする説。
(c) 実施時説
合意内容を完全に実施した時点で、不当な取引制限が成立するとする説。
(d) 効果発生時説
現実に競争の実質的制限という効果が発生した時点で、不当な取引制限が成立するとする説。
学説上は、従来、合意時説が多数説であるとされてきました。合意時説は、実効性のある共同行為の存在から直ちに競争の実質的制限の要件の充足を認める見解(上記(ア))の帰結でしょう。
しかし、近年は、カルテルの類型により、不当な取引制限の既遂時期を別個に考えていこうとする学説が有力になっています(個別検討説)。これは、価格カルテルや数量カルテルなどについては、競争制限それ自体が目的であるし、その維持のコストにもかかわらず合意がなされたという事実そのものが遵守の蓋然性を示しているから、合意時説を採り、共同研究開発、共同販売などについては、競争制限それ自体が目的ではなく、その効果も明らかではないから、着手や実施が必要となると主張しています。
公取委の見解は、必ずしも明瞭ではありませんが、合意内容の実施を必須のものとはしておらず、概ね着手時説を採っているものと思われます。
判例においては、最判昭和59年2月24日刑集38巻4号1287頁(石油価格カルテル刑事事件。後出(5)(イ))が、この問題について、「事業者が他の事業者と共同して対価を協議・決定する等相互にその事業活動を拘束すべき合意をした場合において、右合意により、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争が実質的に制限されたものと認められるときは、独禁法89条1項1号の罪は直ちに既遂に達し、右決定された内容が各事業者によって実施に移されることや決定された実施時期が現実に到来することなどは、同罪の成立に必要でないと解すべきである。」 (下線は岩本)と判示しました。
この判例については、合意時説を採ったものと解する論者が多いのですが、下線部を見ればわかるように、合意により反公益性の要件及び競争の実質的制限の要件が満たされた場合には既遂になるという当然のことを述べたに過ぎず、一般的に合意により不当な取引制限が成立するとする見解を採ったものとは考えられません。
私は、この問題については効果発生時説を採るべきものと考えます。その根拠は、(ⅰ)不当な取引制限の定義を規定した2条6項は、競争の実質的制限という効果の発生をその要件としているのであるから、その発生があってはじめて既遂となるのが当然であること、(ⅱ)合意時説は、合意がなされれば当然に競争の実質的制限が生ずることとなるという理解に立っての所説であると思われるところ、カルテルの合意については、その各当事者は抜け駆けをし単独で利益を享受しようとする誘惑に駆られるのが常であるから壊れやすいものであることは顕著な事実であり、合意により当然に競争の実質的制限が発生するというのは明らかに論理の飛躍であること、です。

(5) 公共の利益に反して
私的独占(2条5項)及び不当な取引制限(2条6項)の定義には、「公共の利益に反して」という文言(反公益性の要件)が置かれています。
この「公共の利益」という文言は、極めて抽象度が高く何を意味するかが判然とはしないため、その意味について議論があります。
(ア) 学説の状況
通説は、「公共の利益」とは、自由競争を基盤とする経済秩序そのものを指すものと解しています。この見解によれば、反公益性の要件は、競争の実質的制限の要件を満たす行為が自動的に充足することとなるから独自の存在意義を持たないこととなり、私的独占・不当な取引制限の他の要件を満足する行為が当然に反公益的であるという「宣言的意味」を持つに過ぎないこととなります。それゆえ、通説は、宣言的規定説と呼ばれています。
そのように解する根拠としては、1条に示された独占禁止法の目的と、それを基点とする独占禁止法全体の構造が挙げられる。公共の利益の本体は一般消費者すなわち国民の利益であり、自由競争経済は、一般消費者の利益保護を目的とする国民経済の構造原理と解されるから、それを維持することが、公共の利益に合致するというのです。
公取委の審決例は、この通説と同様の立場に立ってきました。
以上の通説に対して、公共の利益をより広義に解するいくつかの少数説があります。その中の主なものは次の説です。
それは、公共の利益とは、原則的には自由競争経済秩序を指すが、例外も認められるとする説です。この説は、例外的に、自由競争経済秩序と競争制限的行為によって守られる価値とを比較衡量して、前者よりも後者の方が大きい場合には、当該行為は公共の利益に反しないものと主張します。この説を例外許容説と呼ぶこととします。

(イ) 判例
高裁レベルの判例には、通説と同旨の見解を採るものの他、例外許容説とも解されるものがありました。
このような中、最高裁は次のように例外許容説を採りました。
判例 (最判昭和59年2月24日刑集38巻4号1287頁(石油価格カルテル刑事事件))
〔事実関係〕
石油輸出国機構(OPEC)による原油価格の引上げに端を発した昭和48年の石油危機時に、石油元売会社の役員らが石油製品価格を引上げる旨の協定を締結したことについて、公取委の告発を受けて、役員14名が89条1項1号(不当な取引制限の罪)に、また元売会社12社が95条の両罰規定に違反するものとして起訴された。第一審の東京高判昭和55年9月26日高刑集33巻5号511頁が有罪判決を言渡したので、一部を除く被告人らが上告した。
〔判 旨〕 上告棄却(但し、一部の被告人らについては原判決を破棄し無罪を言渡し)
「独禁法の立法の趣旨・目的及びその改正の経過などに照らすと、同法2条6項にいう『公共の利益に反して』とは、原則としては同法の直接の保護法益である自由競争経済秩序に反することを指すが、現に行われた行為が形式的に右に該当する場合であっても、右法益と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して、『一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する』という同法の究極の目的(同法1条参照)に実質的に反しないと認められる例外的な場合を右規定にいう「不当な取引制限」行為から除外する趣旨と解すべき」である。

本件においては、反公益性の要件について、上告人らが「生産者・消費者の双方を含めた国民経済全般の利益に反した場合」をいうと主張したのに対し、最高裁は上記のように判示しました。この争点は、石油の価格カルテルが監督官庁である通商産業省の適法な行政指導に従って行われた場合に違法性が阻却されるかという問題に関連するものです。但し、本件において、最高裁は、通商産業省の行政指導は違法なものであったということはできないとしたものの、被告人らの石油製品価格の引上げの協定については、「行政指導に従いこれに協力して行われたものと評価することのできないことは明らかである」と判示し、不当な取引制限の成立を認めました。

この最高裁判決後においても、高裁レベルの判決には、通説と同旨の見解を採るものもあります。

(ウ) 私見
私は、反公益性の要件の解釈について、例外許容説が妥当であると考えています。
自由競争経済秩序が重要な価値を持つことは明らかであり、公正かつ自由な競争の促進(1条)を直接の目的とする独占禁止法において、それを侵害することは、原則として違法と評価されることとなるのは当然であり、安易に他の価値を理由として合法化することは許されないことに異論はありません。
しかしながら、常に自由競争経済秩序が至上の価値を持つと断ずることはできず、それと比較衡量した結果、より優先させざるを得ない価値が存在することを否定することはできないと思います。このような価値には、例えば、人の生命・身体の安全の確保、社会秩序の維持、消費者・中小零細企業等の社会的弱者の保護などがあり得ましょう。そのような場合において、適切な結論を導くためには例外許容説が妥当です。これに対し、自由競争経済秩序そのものを公共の利益とする通説は、前述のように、「公共の利益の本体は一般消費者すなわち国民の利益であり、自由競争経済は、一般消費者の利益保護を目的とする国民経済の構造原理と解されるから、それを維持することが、公共の利益に合致する」というのですが、これはいささか乱暴な立論であって、法解釈に特定のイデオロギーを持ち込むものであり、また、個別具体的な事案によっては妥当な結論を導くことができない場合が生じ、現実にその立場を貫徹することは不可能であると考えられます。
さて、例外許容説を採る場合、ある競争制限的行為が反公益性の要件を充足しないために違反とならないものとする結論は例外的にのみ認められるべきですから、自由競争経済秩序と、当該行為が持つ他の価値との比較衡量においては、単純に両者を対照するのではなく、前者に十分比重を置いた上、それでもなお後者を優先させるべき特段の事情があるかどうかを慎重に検討する必要があります。
そして、競争を損なう行為であっても例外的に自由競争経済秩序以外の価値によって違反とならないものとすべき場合があることは、反公益性の要件を持たない違反行為(私的独占・不当な取引制限以外の独占禁止法上の違反行為の全て。したがって、競争の実質的制限を要件としない違反行為(例えば、不公正な取引方法)をも含む)についても同様であるはずですから、それらの違反行為についても反公益性の要件を類推適用すべきであると考えます。
ところで、例外許容説を採ることが、独占禁止法の直接目的と究極目的との関係について、後者は前者の上位にあり、より高い次元から前者を規正するものと解する私見(この連載の「その3」の4.)と整合的なものです。

ところで、例外許容説は、ある行為が独占禁止法上の規制の行為類型に該当し競争を損なうものであるとしても、例外的には違反とならないという結論を導くことができる独占禁止法の解釈の枠組みです。しかしながら、このような枠組みは、反公益性の要件に手懸かりを求める例外許容説に限るものではありません。同様の枠組みとしては、私の知る限り、次のニつの解釈論があります。
第一は、問題となる行為は、独占禁止法上の規制の行為類型に該当し競争を損なうものではあるが、そのような「競争」は独占禁止法上保護に値しない競争であるために、競争の実質的制限や公正競争阻害性の要件を満たさないから違反とはならないとする解釈論です(競争観念非該当説)。公取委は、審判審決平成7年7月10日審決集42巻3頁(大阪バス協会事件。後出(エ))において、競争観念非該当説を採るに至ったものと解されます。
第二は、競争の実質的制限や公正競争阻害性が認められるためには、「反競争性あり+正当化理由なし」という要件が満たされる必要があるとし、問題となる行為は、反競争性はあるが、正当化理由があるから違反とはならないという解釈論(正当化理由説)です。
これら三つの解釈論のうち、私自身は、反公益性の要件という明文の文言に根拠を見出す例外許容説が妥当であると思っていますが、いずれを採っても、具体的な問題に対する結論についてほとんど相違は生じないものと思われます。その意味では、いずれを採っても差し支えないとも言えましょう。
いずれにせよ、従来圧倒的に優勢であった通説(宣言的規定説)に多少の揺らぎが生じつつあり、競争を損なう行為であっても例外的に自由競争経済秩序以外の価値によって違反とならないものとすべき場合があることを認める見解も散見されるようになってきていると思います。

(エ) 競争を損なう行為であっても例外的に自由競争経済秩序以外の価値によって違反とならないものとすべき場合があることを認めた判審例
競争を損なう行為であっても例外的に自由競争経済秩序以外の価値によって違反とならないものとすべき場合があることを認めた判審決例として、次のようなものがあります。
第一に、次のような下級審の判例を挙げます。
判例 (東京地判平成9年4月9日判時1629号70頁(エアーソフトガン事件))
〔事実関係〕
遊戯銃の一種であるエアーソフトガンのメーカーから成り同ガンの安全性に関する自主基準の制定等を行う組合Yが、卸売業者・小売業者に対して、Yに加入せずYの自主基準に適合しないエアーソフトガンを製造するメーカーXの商品の販売を中止させた。このため、XがYらの行為は独占禁止法8条1項1号・5号(現8条1号・5号)等に違反するとして民法719条に基づきYらに損害賠償請求訴訟を提起した。
〔判決要旨〕 請求の一部認容
裁判所は、結論的には、Yらの行為が独占禁止法8条1項1号・5号に違反するものと判示したが、一般論としては、8条1項1号については、最高裁判例(前出(イ)の石油価格カルテル刑事事件)の比較衡量の枠組みに従って、安全性の確保を目的とする自主基準に適合しない商品の取扱いの中止を要請することが公共の利益に反さず、また、8条1項5号については、正当な理由があり不公正な取引方法(共同の取引拒絶(昭和57年一般指定1項2号(現平成21年一般指定1項2号)))に該当する行為をさせるようにすることに該当しないものとして、独占禁止法違反とならないことがあり得ることを認めた。

この判決は、独占禁止法8条1項1号には反公益性の要件がないにもかかわらず、実質
的には、同号に当該要件を類推適用したものです。

第二に、競争概念非該当説を採った公正取引委員会の審決例として、次のものを挙げておきます。
審決例 (審判審決平成7年7月10日審決集42巻3頁(大阪バス協会事件))
〔事実関係〕
本件は、バス事業者から成る事業者団体が貸切バス運賃の引上げを協定し会員にこれを実施させたという事案である。貸切バス運賃は道路運送法に基づき運輸大臣の認可を受けなければならないが、本件事件当時、貸切バス運賃は、認可された標準運賃を中心とした一定の幅の範囲内で各事業者が自由に設定できる制度となっていた(幅運賃制度)。しかし、旅行業者の主催旅行向け輸送運賃について、実勢運賃(実際に通用している運賃)は幅運賃の下限を下回るものであったため、被審人である当該事業者団体がその引上げを協定したのであるが、その協定による運賃もなお幅運賃の下限を下回るものであった。この行為が独占禁止法8条1項1号(現8条1号)に違反するかどうかが問題となった。
〔審決要旨〕
本件行為について、8条1項1号に違反する事実を認めることはできない。
審決は、価格協定については、通常であれば「一定の取引分野における競争を実質的に制限」しているとされる外形的な事実が調っている限り、3条又は8条1項1号に違反することとなるのが原則であるとしつつ、次のように述べた。
「もっとも、その価格協定が制限しようとしている競争が刑事法典、事業法等他の法律により刑事罰等をもって禁止されている違法な取引(典型的事例として阿片煙の取引の場合)又は違法な取引条件(例えば価格が法定の幅又は認可の幅を外れている場合)に係るものである場合に限っては、別の考慮をする必要があり、このような価格協定行為は、特段の事情のない限り、(2条6項、8条1項1号所定の)「競争を実質的に制限すること」という構成要件に該当せず、したがって(中略)排除措置命令を受ける対象とはならない、というべきである。」
審決は、その理由として、独占禁止法による排除措置を命ずることができるかどうかは、専ら同法の見地から判断すべきであって、道路運送法の認可制度を定める規定により当然に判断の拘束を受けるものではないが、独占禁止法の直接及び究極の目的(1条)をも考慮してみると、上記の場合には、他の法律により当該取引又は当該取引条件による取引が禁止されているのであるから、排除措置命令を講じて自由な競争をもたらしてみても、同法の目的に沿わないこととなるのが通常の事態に属するといい得ることを挙げている。

次回は、不当な取引制限の具体例、不当な取引制限に対する制裁について、説明します。

 

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