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  • 2022.03.04

独占禁止法について〔その17〕

独占禁止法について〔その17〕

 

今回は、企業結合に関する規制について、ご説明いたします。

 

Ⅳ 企業結合に対する規制

  1. 趣旨

(1) 企業結合に対する規制の根拠

複数の事業者が何らかの関係を持つ場合に、その態様には様々なものがあります。

第一に、複数の事業者が言わば対向的な立場に立って取引を行う場合、すなわち、商品・役務と対価とを相互に交付し合う経済的関係を結ぶ場合です。

第二に、複数の事業者が対向的な立場に立つのではなく、経済的に同一の利害関係を持つ立場に立って、相互に協力し合う場合があります。例えば、研究開発、資金調達、原材料購入、生産、販売、配送等を共同事業として行うような場合です。

以上に述べた複数の事業者の関係は、いずれも相互に独立性を維持している複数の事業者が、契約に基づき経済的関係を形成する場合です。

しかしながら、複数の事業者の関係は、これらに尽きるものではなく、第三に、複数の事業者が、株式の保有や合併などによって組織的に密接な関係を持ち、以後、継続的に一体として事業活動を行うという場合があります。このように、複数の事業者が、組織的に一体化し、統一的意思の下に置かれることとなることを企業結合といいます。第二の場合が、独立性を維持している事業者間の契約に基づく関係であり「ゆるい結合」と言われるのに対し、企業結合は、複数の事業者が組織的に一体化する関係であり「固い結合」と言われます。

企業結合により、それ以前から存在していた複数の事業者がより規模の大きな事業体(ここにいう「事業体」には、それ自体単独の事業者であるものもあれば、統一的意思の下に統括された複数事業者の集団であるものもあります)として統合されることにより競争を行う主体が減少したり形成された事業体が強大な経済力を有することとなるという市場構造の変化が生じ、それを契機として、市場の競争が損なわれることとなるおそれが生じます。それゆえに、企業結合に対して規制を行うことが独占禁止政策上必要となるのです。

企業結合に対する規制は、独占禁止法第4章(「株式の保有、役員の兼任、合併、分割、株式移転及び事業の譲受け」)に規定されています。

 

(2) 市場集中規制と一般集中規制

企業結合は、複数の事業者が組織的に一体化し統一的意思の下に置かれることとなることですから、これにより、多かれ少なかれ、それらの事業者が有していた経済力が集中することとなります。

企業結合による経済力の集中には、市場集中と一般集中とがあります。

市場集中とは、一定の取引分野、すなわち特定の市場における集中であり、一般集中とは、特定の市場ではなく、一国の経済全体において、特定の事業者ないしその集団が大きな経済力を持つこととなる集中です [1]

これらのうち、市場集中は、特定の市場に着目した観念ですから、それによって市場の競争が損なわれることとなるおそれがあり、規制の対象とすべきであることは理解しやすいものです。上記(1)に述べた企業結合に対する規制の根拠は、市場集中規制に対して直接的に適合するものです。そして、特定の市場に規模の大きな事業体が形成されることは、他の事業者の事業活動を排除・支配し競争の実質的制限を生じさせることとなるおそれがありますから、市場集中規制は、私的独占の禁止の補完規制であると言えます。

これに対して、一般集中規制の根拠は、市場集中規制の場合ほどには明確ではありません。なぜならば、一般集中は、特定の市場ではなく一国の経済全体に着目した観念であり、特定の市場の競争を損なうこととなるかは必ずしも明らかではないからです。学説上は、市場集中に対する規制が上述のように私的独占の禁止の補完規制であるとするならば、一般集中規制の性格は、補完規制の補完規制と考えられています。これは、一般集中によって特定の事業者の経済力が過度に大きくなることは、特定市場での競争に悪影響が生じるおそれがあることに着目したものです。

思うに、市場集中規制の必要性には疑問を差し挟む余地がありませんが、一般集中規制については、市場の競争への影響という経済的な面にのみ着目したのでは、その根拠が必ずしも十分なものとはならないように考えられます。一国の経済全体において大きな経済力を持つ事業者であるからといって、特定市場の競争が損なわれることとなる蓋然性がどの程度高いかは必ずしも明確ではないからです。それゆえ、一般集中規制の根拠としては、経済的根拠を挙げるのみでは不十分であり、政治的哲学的根拠(「独占禁止法について〔その2〕」)を併せ掲げることが必要であると考えます。

 

(3) 「会社」「株式」等の意味

企業結合規制に関する複数の条項において用いられている用語をここに解説しておきます。

「会社」という語は、会社の種類に関して何らの限定も附されていませんから、会社の種類を問いません。もっとも、企業結合行為の主体となる会社については、実際上問題となるのは、大規模な会社組織であることを想定した制度である株式会社である場合が多いでしょう。

企業結合の主体となる会社は、9条1項の場合を除いて、外国会社をも含みます(「会社(外国会社を含む。以下同じ。)」(9条2項)とされています)。

取得・保有の対象となる会社の「株式」(9条、10条、14条。なお、11条1項但書1~5号)は、「株式(社員の持分を含む。以下同じ。)」(9条1項)とされていますので、株式会社の株式のみならず、合名会社・合資会社・合同会社・相互会社の社員の持分も含まれます。

株式の「取得」(9条、10条、14条。なお、11条1項但書1~5号)とは株式を新たに保有することをいい、株式の「所有」(9条、10条、14条。なお、11条1項但書1~5号)とは継続的に株式を保有することをいいます。株式の「取得」と「所有」とを併せて「保有」といいます(独占禁止法第4章の表題参照)。「取得」の他に「所有」が規制されているのは、株式取得時には、要件を満たさないために違反とならない場合でも、その後の状況の変化によって当該株式保有を規制する必要が生ずる場合があるからです。

 

  1. 企業結合に対する規制の内容

(1) 市場集中規制

市場集中規制には、(a)会社による他の会社の株式の保有に関する規制(10条)、(b)会社の役員・従業員による他の会社の役員の兼任に関する規制(13条)、(c)会社以外の者による会社の株式の保有に関する規制(14条)、(d)会社の合併に関する規制(15条)、(e)会社の共同新設分割・吸収分割に関する規制(15条の2)、(f)共同株式移転に関する規制(15条の3)、(g)会社による他の会社の事業の譲受け等に関する規制(16条)、があります。

(ア)「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」の意味

市場集中規制である上記(a)から(g)の規定においては、(ⅰ)当該企業結合により、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなること、及び、(ⅱ)不公正な取引方法により当該企業結合がなされること、が禁止されています。(ⅱ)は、不公正な取引方法を手段として企業結合がなされることですが、稀な場合でありこれまでに適用事例もないため、以下においては専ら(ⅰ)について述べます。

まず、(ⅰ)のうち、「一定の取引分野」という観念については、既に述べました(「独占禁止法について〔その6〕」)。

次に、(ⅰ)の「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」という要件には、私的独占や不当な取引制限等の要件(2条5項・6項等)となっている「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」(競争の実質的制限)とは異なり、「…こととなる」という文言が附加されています。

これは、競争の実質的制限が現に生じているのではなく、それが将来生ずることが客観的にみて確実であることを意味します。公取委の「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(平成16年5月31日。「企業結合審査ガイドライン」)にも、同旨と思われる記述があります [2] [3] [4]

ある市場集中が独占禁止法上違反となるか否かについての公取委の考え方は、上述の企業結合審査ガイドラインに示されています。以下、主に企業結合審査ガイドラインの記述に依拠しつつ説明をしていくこととします。

(2) 市場集中の形態と違反の可能性

企業結合審査ガイドラインには、企業結合の形態と違反の可能性について、次のような内容のことが述べられています [5]

(ア) 企業結合には次のような形態がある。

(a) 水平型企業結合――同一の一定の取引分野において競争関係にある会社間の企業結合。

(b) 垂直型企業結合――例えば、メーカーとその商品の販売業者との間の合併など取引段階を異にする会社間の企業結合をいう。

(c) 混合型企業結合――例えば、異業種に属する会社間の合併、一定の取引分野の地理的範囲を異にする会社間の株式所有など水平型企業結合又は垂直型企業結合のいずれにも該当しない企業結合をいう。

(イ) これらのうち、(a)は、一定の取引分野における競争単位の数を減少させるので、競争に与える影響が最も直接的であり、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる可能性は、(b)や(c)に比べ高い。これに対し、(b)及び(c)は、一定の取引分野における競争単位の数を減少させないので、(a)に比べて競争に与える影響は大きくなく、一定の場合を除き、通常、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとは考えられない。

次に、企業結合審査ガイドラインは、通常、垂直型企業結合及び混合型企業結合についても、当事会社グループ間の取引部分について閉鎖性・排他性の問題が生ずる場合、メーカーが垂直型企業結合関係にある流通業者を通じて他のメーカーの価格等の情報を入手しメーカー間で協調的に行動することが高い確度で予測することができるようになる場合などには、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとしています [6]

(3) 市場集中規制の個別類型

以下においては、(1)に挙げた7つの市場集中規制の個別類型のうち、特に問題となることが多い、会社による他の会社の株式の保有に関する規制(10条)と会社の合併に関する規制(15条)、について述べることとします。

なお、これらの規制については、脱法行為――形式上は、各条項に規定された規制の対象行為に該当しなくても、実質的には規制対象行為と同じ効果を持つ行為――が禁止されている(17条)ことに注意が必要です。

(ア) 会社による他の会社の株式の保有に関する規制

会社は、他の会社の株式を取得し、又は所有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得し、又は所有することが禁止されています(10条1項前段。なお、不公正な取引方法による他の会社の株式の取得・所有の禁止について同項後段)。

企業結合審査ガイドラインは、どのような場合が企業結合審査(企業結合が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか否かについての審査)の対象となる企業結合であるのかを、個別類型ごとに明らかにしています。それらに該当する場合において、上記(1)(2)に述べた考え方に基づいて、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか否かが審査されることとなります。

会社による株式の保有については、株式を所有する会社(株式所有会社)と株式を所有される会社(株式発行会社)との間に結合関係が形成・維持・強化され、企業結合審査の対象となるのは、次のような場合であるとされています [7]

(a) 株式発行会社の総株主の議決権に占める株式所有会社の属する企業結合集団 [8] に属する会社等 [9] が保有する株式に係る議決権を合計した割合が50%を超える場合。但し、株式発行会社の総株主の議決権の全てをその設立と同時に取得する場合は、通常、企業結合審査の対象とならない。

(b) 株式発行会社の総株主の議決権に占める株式所有会社の属する企業結合集団に属する会社等が保有する株式に係る議決権を合計した割合が20%を超え、かつ、当該割合の順位が単独で第1位となる場合

水平的な株式保有が違反とされた事案として、勧告審決昭和32年1月30日審決集8巻51頁(日本楽器事件) [10]、同意審決昭和48年7月17日審決集20巻62頁(広島電鉄事件) [11] があり、他方、違反とされなかった事案として、公取委公表平成14年4月26日(JAL・JAS事業統合事件)、公取委公表平成24年7月5日(東証・大証事業統合事件)があります。

垂直的な株式保有が違反とされた事案としては、同意審決昭和26年6月25日審決集3巻73頁(日本石油運送事件)があります。

なお、混合型の株式保有に係る審決例は存在しません。

(イ) 会社の合併に関する規制

会社は、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、合併をすることが禁止されています(15条1項1号。なお、不公正な取引方法による合併の禁止について同項2号)。

合併の場合は、複数の会社が一つの法人として一体となるので、当事会社間で最も強固な結合関係が形成されることとなります。したがって、株式保有や役員兼任を通じて一定の結合関係がありながら、競争への影響をみる上では、結合関係がそれほど強くないことから問題ないとされた場合でも、合併により結合関係が強まり、問題とされる場合もあり得ます [12]

会社の合併に関する審決例は、同意審決昭和44年10月30日審決集16巻46頁(八幡製鉄・富士製鉄合併事件)が唯一のものです。この両社は、鉄鋼製品の製造・販売分野における第1位(八幡製鉄)、第2位(富士製鉄)の地位にあり、一部の鉄鋼製品の製造・販売分野において競争を実質的に制限することとなる疑いがありました。そこで、公取委は、本件の合併届出を受理後、昭和44年5月7日、両社に対して合併をしてはならない旨の勧告を行うと同時に、東京高等裁判所に緊急停止命令の申立て(旧67条)を行いました。しかしながら、両社が勧告を応諾しない旨回答したため、公取委は本件について審判開始決定を行いました。その後、両社から同意審決申出書が提出されたため、公取委は、両社を合わせた品目別の国内シェア(昭和43年度)が高くなる4品目(鉄道用レール、鋼矢板等)について競争の実質的制限とならないよう営業の一部譲渡等の措置を命ずる同意審決(旧53条の3)を行いました(同意審決昭和44年10月30日審決集16巻46頁)。これにより、翌昭和45年に、両社が合併し、新日本製鐵が誕生することとなりました。

いわゆるバブル崩壊後における我が国の厳しい経済状況の中で、金融業、製造業等の分野で大型合併が相次ぎました。これらの多くは、後述の事前相談の段階で処理がなされ、公取委による法的措置は特段採られませんでした。なお、公取委は法運用の透明性を高めるために、平成8年以降、事前相談で処理した合併の事例を公表することとしていました [13]

その後、新日本製鐵と住友金属工業との合併事案が、粗鋼生産量が世界第2位クラスの製鉄会社が誕生することとなる大型合併であるため、社会的に注目を浴びたことがありました。本件について、公取委は、当事会社が競合する商品・役務について約30の取引分野を画定し審査を行ったところ、(ⅰ)無方向性電磁鋼板及び高圧ガス導管エンジニアリング業務については、当事会社が公取委に申し出た問題解消措置 [14] を前提とすれば、本件合併が競争を実質的に制限することとはならない、(ⅱ)それ以外の取引分野については、いずれも本件合併が競争を実質的に制限することとはならない、と判断し、当事会社に対し、排除措置命令を行わない旨の通知を行いました [15]

(4) 市場集中に関する届出制度

市場集中については、規制の実効性を確保するため、公取委に対する届出が義務付けられている場合があります。届出制度については、近年、簡略化ないし一部については廃止が行われています。

(5) 事前相談制度の廃止と審査手続の迅速性・透明性の向上

公取委は、従来、具体的な企業結合の計画について一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか否かについて、事業者から照会を受け、企業結合審査ガイドラインに即して審査を行い、事業者に回答する事前相談制度を設けていました [16] が、事前相談制度は平成23年7月1日に廃止されました [17]

(6) 違反行為に対する措置

市場集中規制の違反に対する排除措置命令は、17条の2に規定されています。

同条に基づく排除措置命令には種々のものがあり得ますが、同条に例示されているものには、(a)株式の全部又は一部の処分(1項・2項)、(b)事業の一部の譲渡(1項)、(c)会社の役員の辞任(2項)、があります。

 

第二 一般集中規制

(1) 序説

一般集中とは、特定の市場ではなく、一国の経済全体において、特定の事業者が大きな経済力を持つこととなる集中であり、これを対象とするのが一般集中規制です。現行の独占禁止法が設けている一般集中規制は次のとおりです。

(a) 事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等に関する規制(9条)

(b) 銀行・保険会社による他の国内の会社の議決権の保有に関する規制(11条)

一般集中規制は原始独占禁止法以来かなりの改正が加えられてきました。

(2) 事業支配力過度集中に関する規制

他の国内の会社の株式を所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社を設立することは禁止されています(9条1項)。会社(外国会社を含む)は、他の国内の会社の株式を取得・所有することにより国内において事業支配力が過度に集中することとなる会社となることが禁止されています(同条2項)。

「事業支配力が過度に集中すること」とは極めて抽象性の高い観念ですが、9条3項に一応の定義規定が置かれています。

同項によれば、まず、事業支配力が過度に集中することとなる会社か否かは、当該会社のみを対象とするのではなく、「会社及び子会社その他当該会社が株式の所有により事業活動を支配している他の国内の会社」という会社グループが全体として判断の対象となります。この場合の「子会社」の定義規定が9条5項に置かれています(同条6項も参照)。

このような会社グループに「事業支配力が過度に集中すること」の意味として、9条3項は、次のように規定しています。

(ア) 次の三つの類型のいずれかに該当すること。

(a) 当該会社グループの総合的事業規模が相当数の事業分野にわたって著しく大きいこと。

(b) 当該会社グループの資金に係る取引に起因する他の事業者に対する影響力が著しく大きいこと。

(c) 当該会社グループが相互に関連性のある相当数の事業分野においてそれぞれ有力な地位を占めていること。

(イ) 上記(ア)のいずれかにより、国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の促進の妨げとなること。

このように、9条3項の規定は、「事業支配力が過度に集中すること」を定義したものという形となってはいますが、その内容自体がなお抽象性の高いものとなっています。そこで、公取委は、「事業支配力が過度に集中することとなる会社の考え方」(平成14年11月12日。「事業支配力過度集中ガイドライン」)を公表し、その具体化を図っています。

9条への違反行為に対しては、株式の全部又は一部の処分等の排除措置が命じられます(17条の2第2項)。

(3) 銀行・保険会社による議決権保有に関する規制

銀行業・保険業を営む会社は、他の国内の会社の議決権をその総株主の議決権の100分の5(保険業を営む会社にあっては、100分の10)を超えて有することとなる場合には、その議決権を取得し又は保有することが禁止されています(11条1項本文)。但し、公正取引委員会規則で定めるところにより予め公取委の認可を受けた場合及び11条1項但書各号のいずれかに該当する場合は、この限りではありません(同条1項但書。なお、同条2項も参照)。

11条への違反行為に対しては、株式の全部又は一部の処分等の排除措置が命じられます(17条の2第1項)。

11条に関連する違反事件の例としては、勧告審決昭和36年6月26日審決集10巻36頁(大和銀行事件) [18]、勧告審決平成3年11月11日審決集38巻115頁(野村證券事件) [19] があります。

 

[1] 市場集中の例としては、(a)銀行同士が合併すること、(b)全国的なスーパーマーケットが地方のスーパーマーケットの株式を保有して子会社にすること、などがあります。一般集中の例としては、(c)ある会社が持株会社として、石油精製、鉄鋼、化学、家電、自動車等の事業を営む会社を支配下に置くこと、(d)銀行がその融資先の企業の株式を幅広く保有すること、などがあります。

[2] 「「こととなる」とは、企業結合により、競争の実質的制限が必然ではないが容易に現出し得る状況がもたらされることで足りるとする蓋然性を意味する」(同ガイドライン第3‐1‐(2))。

[3] このように、市場集中規制において、競争の実質的制限が現に生じているのではなく、それが将来生ずることが客観的に確実であるという段階で違反が成立することとされているのは、規制の対象となる行為が、それ自体直ちに競争の実質的制限という効果を生じさせるわけではないからです。すなわち、企業結合規制の対象となるのは合併、株式保有等の企業結合を生じさせる行為であるところ、これらの行為自体は、結果的に、競争を損なう効果を持つ場合もあれば、逆に、競争を促進する効果を持つ場合もあり(例えば、中小企業が合併して大規模化することにより、既存の大企業との間で競争が活発化するというようなことがあり得ます)、競争に及ぼす影響を一概に判断することはできません。これは、例えば私的独占における排除・支配や不当な取引制限における共同行為がそれ自体競争を損なう効果を持ち得ることとは、大いに異なっています。したがって、企業結合の場合においては、当該企業結合行為によって形成される市場構造の下で、事業者の行為によって競争の実質的制限という効果が生ずることとなり得るかどうかを客観的、合理的根拠に基づいて予測し、それが生ずることが確実視される場合に違法とするという判断を行うこととなるのです。

[4] 「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」場合の意味が実際の事件で問題となったのが、同意審決昭和44年10月30日審決集16巻46頁(八幡製鉄・富士製鉄合併事件)です(同事件については後述を参照))。

[5] 企業結合審査ガイドライン第3‐2。

[6] 企業結合審査ガイドライン第5‐1‐(1)及び(2)。なお、第5‐2も参照。また、第5‐1‐(3)には、「競争を実質的に制限することとならない場合」に係る記述があります。

[7] 企業結合審査ガイドライン第1‐1‐(1)‐ア。

[8] 「企業結合集団」とは、10条2項カッコ書において、「会社及び当該会社の子会社並びに当該会社の親会社であって他の会社の子会社でないもの及び当該親会社の子会社(当該会社及び当該会社の子会社を除く。)から成る集団をいう。以下同じ。」と定義されています(ここにいう「子会社」及び「親会社」の定義については、10条6項及び7項を参照)。要するに、会社の最終の親会社(会社の親会社のうち他の会社の子会社でないもの)とその子会社からなる企業グループを指します。

[9] 「会社等」とは、「会社、組合(外国における組合に相当するものを含む。)その他これらに類似する事業体をいう。」(10条2項カッコ書)と定義されています。

[10] 本件においては、楽器類の製造販売を業とする日本楽器(市場占有率は、ピアノ54%、オルガン64%、ハーモニカ28%で、いずれも第1位)が、競争関係にある河合楽器(市場占有率は、ピアノ16%、オルガン13%、ハーモニカ7%)の発行済株式数の24.5%の株式を第三者の名義で取得したことについて、ピアノ、オルガン、ハーモニカの製造販売の分野における競争を実質的に制限することとなるものとして違反としました。なお、本件は、第三者名義での株式保有が問題となった事案であるため、10条の禁止を免れる行為であるとして、17条に違反するものとされました。

[11] 本件においては、広島市内における軌道及び乗合バスによる旅客の運送が概ね広島電鉄と広島バスとによって行われている状況の下で、広島電鉄が広島バスの発行済株式総数の約85%を取得したことについて、広島市の主要な地域における軌道及び乗合バスによる旅客運送分野における競争を実質的に制限することとなるものとして10条1項前段に違反するものとされました。

[12] 企業結合審査ガイドライン第1‐3‐(1)。

[13] 事前相談制度及び同制度の廃止については、後述の(5)を参照。

[14] 問題解消措置の内容は、(a)無方向性電磁鋼板については、(ア)合併後5年間、住友商事に対し、住友金属工業の直近5年間における国内年間販売数量の最大値を上限として、合併会社の同商品のフルコストをベースとして計算した平均生産費用に相当する価格で供給すること、(イ)住友商事に対し、住友金属工業の同商品に関する国内ユーザー向けの商権を譲渡すること、等であり、(b)高圧ガス導管エンジニアリング業務については、(ア)新規参入者に対し、高圧ガス導管の材料であるUO鋼管を、当事会社の子会社に供給する場合と実質的に同等かつ合理的な条件により供給すること、(イ)新規参入者に対し、子会社等を通じて、合理的な条件により、自動溶接機を譲渡・貸与し技術指導を行うこと、等でした。

[15] 平成23年12月14日公取委報道発表資料「新日本製鐵株式会社と住友金属工業株式会社の合併計画に関する審査結果について」。なお、この合併により、平成24年10月1日、この両社は新日鐵住金となり、更に、平成31年4月1日、商号を日本製鉄に改めた。

[16] 事前相談は、法令に基づくものではなく、企業結合審査ガイドラインの末尾の(付1)及び「企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針」(平成14年12月11日。公正取引委員会)に基づいて行われてきました。なお、事前相談制度は、企業結合に関してのみ設けられているものではなく、一般に事業者・事業者団体の活動についての独占禁止法上の違反の有無について、公取委は事前相談に応じています。「事業者等の活動に係る事前相談制度」(平成13年10月1日。公正取引委員会)を参照。

[17] 公取委は、この廃止の理由として、(a)欧米競争当局においては、事前相談では最終的な判断を行わないこと、(b)平成21年の独占禁止法改正により、株式取得についても事後報告義務から事前届出義務に改められたため、事前に公取委の判断を得るという事前相談の意義が低下したこと、を挙げています(平成23年3月4日報道発表資料「企業結合規制(審査手続及び審査基準)の見直し案に対する意見募集について」)。従来、事前相談については、〈担当者によって判断が異なる〉、〈追加的に資料提出を求められるなどにより回答を得られるまでに時間がかかる〉などの批判が産業界からあったようです。しかし、事前相談制度には法的な手続に乗せる前に非公式に公取委の判断を知ることができるという実際上の利点があったことを考えると、上記のような批判に応えるためには、事前相談制度の運用の改善により対処すればよく、制度を廃止すべきであったかは疑問が残ります。

[18] 本件においては、大和銀行と油脂加工品及び合成化学製品等の製造販売を業とする酸水素油脂工業株式会社とが取引関係にあったところ、酸水素油脂工業の多額の繰越欠損や負債を処理し本格的な会社再建を図るに当たり、大和銀行に対する3億4500万円の債務について、新たに発行する株式を大和銀行に引受けてもらうこととし、それに伴う大和銀行の払込債務と酸水素油脂工業の大和銀行に対する上記債務とを合意相殺することとしたために、大和銀行が所有する酸水素油脂工業の株式は同社の発行済株式総数の71%に相当することとなったことについて、11条1項(当時の銀行による株式保有の限度は10%)に違反するものとしました。

[19] 本件においては、野村證券が、不動産賃貸業等を営む野村土地建物株式会社が自己にとって重要な会社であることから、同社の株式について、自己と友好関係にある三和銀行、大林組等の会社に依頼しこれを保有させるに当たって、覚書等により、自己の承諾なくして他へ譲渡されることがないようにするとともに、当該株式を自己又は自己の指定するものに譲渡させることができるようにすることによって、自己が所有しているのと同様の状態に置いていることを、11条の規定による制限を免れる行為であって17条の規定に違反するものとしました。なお、14年改正で現在は、証券会社は11条の規制の対象外となっています。

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