1 企業側の労働問題 採用内定の取消について...
<1 採用内定の取消について> プロシード法律事務所代表弁護士の佐藤竜一と申します。本事務所では週一回所内で...
- 2023.10.01
独占禁止法について〔その21〕
独占禁止法上の違法行為や適用除外については、前回までにご説明を終えました。
以下においては、独占禁止法の執行(エンフォースメント)と私人の救済についてご説明いたします。
Ⅰ 序説
前章までにおいては、独占禁止法上の違法行為や適用除外に関する実体的規定についてご説明しました。
これらの実体的規定が適切に運用されるには、その執行のための体制が整備されなければなりません。
独占禁止法の執行としてまず重要であるのは排除措置命令等の行政処分ですから、これを行う行政庁が設けられる必要があります。この行政庁は、公正取引委員会です。
行政処分は、一定の手続によって行われます。法が定める手続に違反してなされた行政処分は瑕疵のあるものとなりますから、行政庁自身はもとより、他の関係者も、行政処分に関して法が定める手続を十分に理解しておく必要があります。
行政処分の違法性の有無が、訴訟で争われることがあります。その手続は、行政事件訴訟法が定めるところによる他、独占禁止法に特則が置かれています。
独占禁止法には、違反行為の相当部分に対して罰則が設けられているとともに、その発動に際しては公取委に重要な役割が与えられています。
独占禁止法上の違法行為によって権利を侵害され損害を被った私人は、確実に救済されなければなりません。このことは、民法の規定を活用することによっても可能ですが、独占禁止法にも独自の救済制度が設けられています。
以下においては、これらについて述べることとします。
Ⅱ 公取委の組織と権限
独占禁止法を所管する行政庁は、公正取引委員会(公取委、公取)です(独占禁止法27条、27条の2)。
公取委は、内閣府の外局として置かれています(内閣府設置法49条1項・3項・64条、独占禁止法27条1項)。公取委は、内閣総理大臣の所轄に属します(独占禁止法27条2項)。「所轄に属する」とは、独立性を持った行政機関が形式的に他の機関のもとに属することを意味します。公取委は、後述2. のようにその職権行使につき独立性を有しています。
公取委は、委員長及び委員4人で組織されます(独占禁止法29条1項。これらの者の任命資格、任命手続については、同条2項以下、同法30条)[1]。
公取委は、合議体の行政庁ですから、その意思決定は合議を経て議決によって行われます(議事手続については、同法34条、65条)。
公取委の委員長及び委員は、独立してその職権を行います(独占禁止法28条)。ここにいう職権行使の独立性とは、法令に基づく個別具体的な権限について、内閣総理大臣その他の機関の指揮命令に服することなく行使することができることを意味します。
公取委に職権行使の独立性が認められている根拠として、(a)独占禁止法運用についての高度の専門技術的判断の確保や、(b)独占禁止法は我が国の自由経済体制を守る基本法であり、その運用は時々の政治的影響を受けることなく継続的一貫性を保持する必要があること、が挙げられます。
Ⅲ 独占禁止法違反に対する強制措置
本節においては、独占禁止法違反に対する公取委の強制措置について説明するとともに、それに関連して、緊急停止命令や審決取消訴訟についても取上げることとします。
(1) 排除措置命令と競争回復措置命令
(ア) 序説
独占禁止法違反に対する強制措置には、排除措置命令、競争回復措置命令及び課徴金納付命令があります。前二者は類似の性格のものであるので一括してここで説明し、課徴金納付命令については後述します。
排除措置命令は、公取委が独占禁止法に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずるものです(独占禁止法7条、8条の2、17条の2、20条)。競争回復措置命令は、独占的状態があるときに、公取委が競争を回復させるために必要な措置を命ずるものです(同法8条の4)。これらはいずれも、講学上の行政処分(「行政行為」という人もいます)の一種です。
具体的な排除措置命令の内容は、事案の内容・特性に応じて様々ですが、例えば、「当該行為を廃止すること。その旨を周知徹底すること。今後、同様の行為を行わないこと。」などというものが典型的なものです。
また、競争回復措置命令は、市場構造を改善するためにいわゆる企業分割を含む措置を採る権限を公取委に与えたものです。
(イ) 既往の違反行為に対する命令
公取委は、既往の違反行為(かつて存在したが、現在は既になくなっている違反行為)に対しても、特に必要があると認めるときは、当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができます(独占禁止法7条2項、8条の2第2項、20条2項)。但し、企業結合に対する規制への違反については、これは認められていません(同法17条の2参照)。
違反行為がなくなった日から7年を経過したときは、既往の違反行為に対する排除措置命令をすることはできません(同法7条2項但書、8条の2第2項、20条2項)。
(ウ) 故意・過失の要否
排除措置命令をするには、行為者に故意や過失は必要ではないとされています。なぜならば、排除措置命令は、独占禁止法に客観的に違反する状態を排除することが目的であって、行為者の意思に基づく行為に対して主観的責任を問うものではないからです。
(2) 行政指導
公取委が事業者等のある行為について独占禁止法違反の有無の調査を行った結果、違反と認める場合には、排除措置命令等の行政処分が行われることとなるのに対し、違反が認められない場合には、不問に付すこととなります(不問措置)。
不問措置には、全く何らの措置も採られない場合と、行政処分は行わないものの公取委により行政指導が行われることがあります。これには、行政処分を行うに足る証拠は得られなかったものの、違反の疑いのある場合に事業者等に対して是正措置を採るよう指導する「警告」と、違反の存在を疑うに足る証拠は得られないが、違反につながるおそれのある行為がみられた場合に未然防止を図る観点から行われる「注意」とがあります。
独占禁止法違反に対して公取委が強制措置を講ずるには、まず、公取委が違反の疑いのある事実(被疑事実)を認知し、それについて必要な調査をする必要があります。この調査に係る手続を審査手続といいます。
審査手続については、「公正取引委員会の審査に関する規則」(平成17年公正取引委員会規則第5号。「審査規則」)に詳細な規定が設けられています。
被疑事実を認知するには、事件の手懸り(これを実務上「端緒」といいます)を把握する必要があります。端緒は、主に、(a)一般人からの報告(独占禁止法45条1項。これを実務上「申告」と称しています)、(b)公取委の職権による探知(同条4項)、(c)課徴金減免制度(同法7条の4)を利用しようとする事業者の報告、によります。
(a)の申告があったときは、公取委は事実について必要な調査をしなければならず(同法45条2項)、特に、申告が書面で具体的な事実を摘示してなされた場合においては、適当な措置をとり又は措置をとらないこととしたことについて、申告者に通知しなければなりません(同条3項)。もっとも、この申告制度は、公取委に職権発動を促す端緒であるにとどまり、公取委に適当な措置をとることを要求する具体的請求権を付与したものではありません。
(b)には、公取委の本局又は地方事務所の職員が直接的に把握する場合の他、マス・メディアの報道等を契機とする場合もあると言われます。
(2) 任意調査と行政調査
公取委は、被疑事実の調査について、関係者による任意の協力を得て行われる任意調査の他に、出頭命令、審尋、意見・報告徴収、鑑定、物件提出命令、立入検査という処分(独占禁止法47条1項)による行政調査[2]をすることができます。公取委が相当と認めるときは、公取委の職員を審査官に指定し、これらの処分をさせることができます(同条2項)。これらの処分は、それを拒否した者に対しては刑罰が科せられる(同法94条)ため、間接的な強制力を持つこととなります。
この同法47条1項に基づく行政調査手続は、裁判官の令状は必要とはされておらず、また、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないとされています(同条4項)。
(3) 犯則調査
独占禁止法の平成17年改正によって、悪質かつ重大な事案について適正な手続による調査をもとに積極的に刑事告発を行うため、犯則調査手続が導入されました。これは、犯則事件の調査のため、公取委に直接的な強制力を持った調査権限(犯則調査権限)を付与するものです(独占禁止法第十二章(101条以下))。「犯則事件」とは、私的独占、不当な取引制限等の罪を規定した同法89条から91条までの罪に係る事件をいいます(同法101条1項)。
犯則調査手続が導入されたのは、従来の調査権限には、①証拠収集能力の不十分さ[3]、②検察当局との捜査上の連携における問題[4]、③適正手続上の問題[5]、といった事情があったことによるものです。
犯則調査手続の内容は次のとおりです。
公取委の職員(公取委の指定を受けた者に限ります。以下「委員会職員」)は、犯則事件を調査するため必要があるときは、犯則嫌疑者若しくは参考人に対する出頭要求、質問、所持物件等の検査・領置、官公署・公私の団体への照会・報告要求をすることができます(同法101条)。これらは、強制力のない任意調査です。
更に、委員会職員は、公取委の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所の裁判官が予め発する許可状により、臨検[6]、捜索[7]又は差押え[8]をすることができます(同法102条1項。なお、急速を要するときについて同条3項)。これらは、対象となる者の同意の有無を問わず、物理的な実力を行使して強制することができる権限です[9]。
委員会職員は、これらの手続をしたときは、その結果等を記載した調書を作成し(同法111条)、犯則事件の調査を終えたときは、調査の結果を公取委に報告しなければなりません(同法115条)。
犯則調査手続については、「公正取引委員会の犯則事件の調査に関する規則」(平成17年公正取引委員会規則第6号。「犯則調査規則」)が制定されています。
(1) 通常の行政処分としての排除措置命令
独占禁止法の平成17年改正前においては、排除措置命令は、必ず審決をもって行われていました。審決とは、法律が定める一定の手続を経て公取委が行う意思表示の形式です。審決には、勧告審決、審判審決、同意審決の3種類がありました[10]。
これに対し、平成17年の改正後は、公取委は、違反行為があるときは、事業者に対して、勧告を行うのではなく、(審判手続を経ることのない)通常の行政処分である排除措置命令を行うこととなりました(旧法49条1項ないし5項)。排除措置命令に不服のある者は、排除措置命令書の謄本の送達があった日から原則として60日以内に公取委に審判を請求することができることとなりました(同条6項)。
すなわち、公取委の排除措置命令に係る審判手続は、平成17年改正前には――通例、勧告を応諾しない者に対する――排除措置命令を行うための事前手続という位置付けの制度でしたが、平成17年改正により、既になされた排除措置命令に対する事後手続(不服審査手続)という位置付けに変更されることとなりました[11]。
更に、審判手続は、平成25年の改正によって、廃止されました。この審判制度の廃止は、同制度については行政処分を行った機関が自ら当該行政処分の適否を判断する仕組みであるという点について事業者側の不信感が払拭できないという指摘があることに鑑みて行われることになったものです。
公取委は、排除措置命令をしようとするときは、その名宛人となるべき者に対し、予め、意見聴取を行わなければなりません(独占禁止法49条以下)。意見聴取は、次の手順で進行します。
(b) 通知を受けた者(当事者)は、公取委に対し、公取委の認定した事実を立証する証拠の閲覧・謄写を求めることができます(同法52条1項)。
(c) 意見聴取は、公取委が事件ごとに指定するその職員が主宰します(「指定職員」。同法53条1項。なお同条2項)。
(d) 指定職員は、意見聴取の期日の冒頭において、当該事件の審査官等に、予定される排除措置の内容、公取委の認定した事実、主要な証拠、法令の適用を説明させなければなりません(同法54条1項)。
(e) これに対し、当事者は、意見を述べ、証拠を提出し、指定職員の許可を得て審査官等に質問することができます(同条2項。なお3項)。
(f) 指定職員は、意見陳述等の経過を記載した調書を作成するとともに、整理した論点を記載した報告書を作成し、公取委に提出しなければなりません(同法58条)。
公取委は、排除措置命令に係る議決をするときは、上記(f)の調書及び報告書の内容を十分に参酌してしなければなりません(同法60条。なお、61条)。
このように、平成25年改正後は、排除措置命令等に先立って行われる手続について、行政手続法上の聴聞手続と同等以上の慎重な手続が採られることとなっています。
(1) 序説
「確約手続」とは、独占禁止法の違反の疑いについて、公取委と事業者との合意により自主的に解決する制度です。
確約手続は、「環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第70号。「TPP協定整備法」)に基づいて設けられた独占禁止法の48条の2から48条の9までの規定に基づくものです。
2004年(平成16年)、欧州委員会(EU)は、競争法の違反の疑いについて、当局と事業者との合意により事件を解決する制度である確約手続(commitment procedure)を導入しました。
公取委は、その運用状況について注視してきたところ、確約手続は、競争上の問題の早期是正や、公取委と事業者が協調的に事件処理を行う領域の拡大に資するものであり、独占禁止法の効果的・効率的な事件処理に役立つ効果があることが明らかになりました。
このような中、2016年(平成28年)2月4日に我が国を含む12か国により署名された「環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership(TPP))協定」に、確約手続に係る規定が設けられたことから、我が国においても、確約手続制度を導入することとなりました。
その後、TPP協定については、米国が離脱したことにより、米国を除く11か国により、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」が署名され、同協定が2018年(平成30年)10月31日に発効したのに伴い、TPP協定整備法も同日から施行されました。
(2) 確約手続の趣旨
上述のように、確約手続は、独占禁止法の違反の疑いについて、公取委と事業者との合意により自主的に解決する制度です。
このように、行政機関と事業者との合意により行政手続において事件を解決する仕組みは、我が国においては例のないものです。
確約手続には、次のようなメリットがあるとされています。
第一に、手続の全体を通じて公取委と事業者とがコミュニケーションを取りながら手続を進めていくことが想定されるため、競争上の問題の早期解決が図られ、独占禁止法の効果的・効率的な執行に資することとなります。
第二に、事業者にとっては、自主的に競争上問題のある行為を排除するために必要な措置を実施することにより、独占禁止法違反であると認定される前に問題解決が図られることから、公取委の調査に対応するコストを節約することができます。
第三に、被害者にとっては、確約手続によって、排除措置命令等がなされるよりも早期に競争上の問題が是正され、事件が終結することとなる結果、被害の程度や被害の範囲が拡大することを防ぐことに資することとなります。
第四に、確約手続と同様の制度は、多くの外国の競争当局が既に導入しており、我が国においてもこの制度を導入することは、競争政策・競争法の執行の国際的なハーモナイゼーションの観点からも望ましいものです。
(3) 確約手続の概要
確約手続の概要は、次のとおりです。
(ア) 公取委による通知
公取委は、独占禁止法の規定に違反する事実があると思料する場合において、その疑いの理由となった行為について、公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要があると認めるときは、当該行為をしている者に対し、当該行為の概要、違反する疑いのある法令の条項等を書面により通知することができます(独占禁止法48条の2)。
なお、事業者は、この通知の前後にかかわらず、公取委に対し、確約手続の利用に係る相談をすることができます(公取委の「確約手続に関する対応方針」(平成30年9月26日。以下「対応方針」という)の3)。
(イ) 事業者による排除措置計画の認定の申請
(ア)の通知を受けた者は、疑いの理由となった行為を排除するために必要な措置を自ら策定し、実施しようとするときは、その実施しようとする措置(排除措置)に関する計画(排除措置計画)を作成し、これを当該通知の日から60日以内に公取委に提出して、その認定を申請することができます(同法48条の3第1項)。
排除措置計画には、排除措置の内容、排除措置の実施期限等を記載しなければならないとされています(同条2項)。
(ウ) 公取委による認定
公取委は、認定の申請があった場合において、その排除措置計画が、(a)排除措置が疑いの理由となった行為を排除するために十分なものであること、(b)排除措置が確実に実施されると見込まれるものであること、のいずれにも適合すると認めるときは、その認定をします(同条3項)。
これに対し、公取委が、認定の申請について、上記(a)又は(b)に適合しないと認めるときは、決定でこれを却下しなければなりません(同条6項)。
なお、違反の疑いの理由となった行為が既になくなっている場合においても、公正かつ自由な競争の促進を図る上で特に必要があると認めるときにおける上記と同様の通知、認定に関する規定が置かれています(同法48条の6、48条の7)。
公取委は、次の場合について確約手続の対象としないこととしています(対応方針の5)。
(a) 入札談合、受注調整、価格カルテル、数量カルテル等のように、独占禁止法3条、6条、又は8条1号・2号に関する違反被疑行為であって、かつ、同法7条の2第1項本文に掲げるものに関する違反被疑行為である場合
(b) 事業者が違反被疑行為に係る事件について同法47条1項各号に掲げる処分を初めて受けた日から遡り10年以内に、違反被疑行為に係る条項の規定と同一の条項の規定に違反する行為について法的措置を受けたことがある場合
(c) 一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な違反被疑行為である場合
これらのように独占禁止法違反行為の中でも、競争を著しく制限するようなものについては、確約手続は適用されないことに注意が必要です。
(エ) 認定の効果
公取委は、上記(ウ)の認定をした場合、当該認定に係る疑いの理由となった行為及び排除措置については、排除措置命令及び課徴金納付命令をしません(同法48条の4)。
(オ) 認定の公表
公取委は、確約手続に係る法運用の透明性、事業者の予見可能性を確保する観点から、排除措置計画の認定をした後、認定した排除措置計画の概要、当該認定に係る違反被疑行為の概要等を公表します(対応方針の11)。
公表に当たっては、独占禁止法の規定に違反することを認定したものではないことを付記します。これは、事業者のレピュテーションリスクに配慮したものです。
(カ) 認定の取消し
公取委は、排除措置計画に従って排除措置が実施されていないと認めるとき、又は、認定を受けた者が虚偽又は不正の事実に基づいて当該認定を受けたことが判明したときには、認定を取り消さなければなりません(同法48条の5)。
(4) 確約手続の認定の実例
以下には、実際に確約手続が適用された事例を挙げておきます(いずれも、公取委のホームページに掲載された報道発表によるものです)。
(ア) 楽天株式会社に関する件
楽天株式会社は、自らが運営する「楽天トラベル」と称するウェブサイトに宿泊施設を
掲載する宿泊施設の運営業者との間で締結する契約において、当該ウェブサイトに当該運営業者が掲載する部屋の最低数の条件を定めるとともに、宿泊料金及び部屋数については、他の販売経路と同等又は他の販売経路よりも有利なものとする条件を定めています。
公取委は、この行為が独占禁止法19条(不公正な取引方法12項(拘束条件付取引))の規定に違反する疑いがあるものとして、通知を行ったところ、楽天から、上記のような行為を取りやめる等の排除措置計画の認定申請があり、これを認定しました(令和元年10月25日)。
(イ) アマゾンジャパン合同会社に関する件
本件については、「独占禁止法について〔その14〕」8.(3)(イ)(c)に前述しました。
(ウ) 株式会社サイネックス及び株式会社スマートバリューに関する件
株式会社サイネックス及び株式会社スマートバリューの2社は、自らのホームページをリニューアルする業務(本件業務)の発注を検討している市町村及び特別区に対してそれぞれが行う受注に向けた営業活動において、当該市町村等が本件業務の仕様において定める、ホームページの管理を行うために導入するコンテンツ管理システム(組織が持つ情報(コンテンツ)の配信、版管理を行うためのシステム。「CMS」)について、2社によって作成された、オープンソースソフトウエア(ソフトウエアのソースコードが無償で公開され、利用や改変、再配布を行うことが誰に対しても許可されているソフトウエア)ではないCMSとすることが当該ホームページの情報セキュリティ対策上必須である旨を記載した仕様書等の案を、自らだけではCMSに係る仕様を設定することが困難な市町村等に配布するなどして、オープンソースソフトウェアのCMSを取り扱う事業者が本件業務の受注競争に参加することを困難にさせる要件を盛り込むよう働き掛けています。
公取委は、これら行為が独占禁止法19条(不公正な取引方法第14項(競争者に対する取引妨害))の規定に違反する疑いがあるものとして、通知を行ったところ、2社から、上記のような行為を取りやめる等の排除措置計画の認定申請があり、これを認定しました(令和4年6月30日)。
公取委は、独占禁止法違反の疑いのある行為をしている者があるときに、緊急の必要があると認めるときは、その違反行為の停止を東京地方裁判所に対して申立てることができます(70条の4、85条2号)。
緊急停止命令に違反したものは、過料に処せられます(98条)。
これまでに、公取委が緊急停止命令を申立てた事件は8件あります。
緊急停止命令を命じた決定としては、例えば、東京高決昭和50年4月30日高民集28巻2号174頁 (中部読売新聞社事件。前述「独占禁止法について〔その9〕」5.(2)(イ)(ⅳ))などがあります。
[1] 公取委には、その事務を処理させるため、事務総局が置かれています(35条1項)。事務総局には、事務総長(同条2項・3項)の他、官房及び経済取引局及び審査局の2局が置かれています(同条4項・6項、公正取引委員会事務総局組織令(昭和27年政令第373号)1条1項。なお、地方事務所について独占禁止法35条の2)。事務総局の職員中には、検察官、任命の際現に弁護士たる者又は弁護士の資格を有する者を加えなければならないこととされています(同法35条7項。なお同条8項)。
なお、一般に「公正取引委員会」という場合には、合議体としての公取委のみを指すのではなく、公取委とその事務総局とを併せた行政組織全体を意味する場合が多くなっています。
[2] 行政調査とは、行政機関が行政活動を的確に行うための準備的活動として情報を収集する作用をいいます。直接的な強制力を持たず、また、犯罪捜査を目的としない点で、本文(3)に述べる犯則調査と区別されます。
[3] 従来、公取委に与えられていた調査権限は、任意調査に係るものの他、処分に従わなかった場合には刑罰が科せられるという形で間接的な強制力を持つ行政調査に係るもののみであったため、刑罰の存在にもかかわらず事件関係人が立入検査に応じず、仮にその間に証拠が破棄された場合には、違反行為の立証が困難でした。
[4] 公取委が行政上の調査の過程で作成した供述調書は、あくまで行政上の措置を念頭に置いて事業者の役職員等が陳述したものをまとめたものであり、被疑者の刑事上の権利との関係等もあって、公判に用いる証拠については、検察官が全て一から調書を取り直すという膨大な手間を要するという問題が存在していました。
[5] 独占禁止法上、違反行為には刑罰が科せられる場合が多い(89条以下)ところ、その場合には、行政処分が課される違反行為の要件は、同時に犯罪構成要件ともなります。そして、公取委には、独占禁止法違反の犯罪について告発義務が課されています(旧73条1項、現74条1項・2項)から、行政調査で収集した資料が刑事責任追及に結び付く可能性があり、また、事件関係人の供述を間接的に強制することとなりましたが、これらは、旧46条4項(現47条4項)に反するおそれがあるとともに、適正手続の保障(憲法31条)、令状主義(憲法35条)、自己に不利益な供述強要の禁止(自己負罪拒否特権。憲法38条1項)の観点から、憲法上問題があるという指摘がありました。
[6] 「臨検」とは、犯則嫌疑者等の所持する当該犯則事件に関係のある物件又は住居その他の場所について、その存在及び性質、形状、現象その他の状態を五感の作用によって知覚実験し、認識することを目的とする強制処分をいいます。
[7] 「捜索」とは、犯則嫌疑者等の身体又は物件について、差し押さえるべき物件を発見するために行う強制処分をいいます。
[8] 「差押え」とは、当該犯則事件の証拠と思われる物件の占有を取得する強制処分をいいます。
[9] 但し、対象となる者の身体を拘束することはできません。なお、委員会職員は、臨検、捜索又は差押えをするに際し必要があるときは、警察官の援助を求めることができます(110条)。
[10] (a)勧告審決とは、公取委が違反行為をしていると認める者に対して適当な措置をとるべき旨を勧告し(旧48条1項・2項)、その者が勧告を応諾したときに、審判手続を経ないでする当該勧告と同趣旨の審決(同条4項)であり(実際上は、これにより処理される事案が大部分でした)、(b)審判審決とは、行為者が勧告を応諾しない場合に、開始される審判手続(旧49条。制度上は、勧告が先行するのではなく、いきなり審判手続を開始することも可能ではありましたが、ほとんどの事件においてはまず勧告がなされました)を経て、公取委が、独占禁止法違反があると認める場合に被審人(違反の有無について審判手続で審理を受ける者)に対してする審決(旧54条)であり(独占禁止法の建前としてはこれが中心的なものであったので、正式審決とも言われました)、(c)同意審決とは、審判開始の後、被審人が、審判開始決定書記載の事実及び法律の適用を認めて、違反措置排除のための具体的措置に関する計画書を提出した場合において、公取委が、それを適当と認めたときに、その後の審判手続を経ないでする当該計画書記載の具体的措置と同趣旨の審決(旧53条の3)でした。
[11] これは、改正前の手続においては、事業者が勧告に不応諾の場合には審判手続に移行することとなるところ、勧告の後も当該事業者が違反行為を継続していた場合には、審判手続を経て審決が出されるまでの間は、継続している違反行為に対処する手段が限られる(緊急停止命令の申立てなど)という問題があったことによります。このため、最近のように経済がスピード化、グローバル化する中で、事件処理の効率化を図り速やかに競争秩序を回復する観点から、事件について審査を行った結果違反行為があると認められる場合には、その時点で当該行為を差止める等の排除措置を命じることができる制度とされました。排除措置命令は、それに違反したものが過料に処せられる(97条。但し、刑罰と併科することはできません(同条但書))ことによって、その実効性が担保されます。
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